次の日もディアッカは屋上にやってきた。だがその日はイザーク・ジュールは現れずに待ち伏せは無駄に終わった。
昨日家に帰ってジュール母子について調べたが、息子がいるということだけしかわからなかった。さすがに議員の息子についてまで公表されることはないらしい。自分とは違う理由だろうけれど、とディアッカはそのことを思い出しながら苦笑する。
屋上からの階段を降りながら、ディアッカは午後の授業にあわせて教室を移動する生徒に出会った。さまざまな髪の色や肌の色。どれも親にコーディネートされた造り物たち。それに何の疑問をもたずに幸せに暮らしているんだろう集団の中できっと自分は浮いているんだろう。
そう思って苦く笑ったとき、目の前の生徒の中にひときわ目立つ存在が現れた。銀色の髪をなびかせて、颯爽と歩く姿は明らかに周りとはオーラが違っている。周りの人間も彼に近寄ろうとはしないで、特別であることをなおさら匂わせていた。
イザーク・ジュール・・・。
階段の中ほどでディアッカは足を止めてその廊下を見下ろした。
なるほど、周囲と群れないっていうのは本当らしい。何人もの生徒が言っていた、賞賛と畏怖の様子が納得できる。彼に近寄りたがる人間はいないようだ。だが、当の本人はそれを特別に思っているわけではなさそうで、ディアッカのみたところ、きわめて自然体に思えた。
ピンと背筋を伸ばして銀色の髪をどこか優雅に乱して歩いている。
きっと生まれながらのエリートとは彼のことを言うのだろうと無言のうちに納得させてしまうほど、その姿はディアッカに言わせればキレイだった。だが、怖いと思うことはなかった。それはディアッカが歳の割りに修羅場を多く体験しているせいかもしれない。きっと、この学校の中でディアッカほど危険な世界に足を突っ込んで遊びまわった人間もいないのだろうから。
ふいに誰かが彼に話しかけた。それにイザーク・ジュールは頷いて答えると、何かを説明している。サラリ、と髪が揺れて白い指先で方向を指し示してた。
へぇっ・・・、別に無愛想ってわけじゃないんだ。
ディアッカの予想に反するイザークの表情はとても穏やかだった。たしか、自分を起こしたときの彼もひどく柔らかい表情をしていたような気がする。寝起きであまりよく覚えてはいないけれど。
あの少年がキレて殴るというのだろうか。
「面白そうだな・・・」
遠くからイザークという少年を見たことでディアッカの興味はますます強くなったのだった。
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