「なぁ、この学校に女みたいな男っている?」
 教室に戻るなり、ディアッカは前の席の級友に声をかけた。自分でもかなり間の抜けた質問だとは思うが、それしか手がかりがないのだから仕方がない。
「女みたいな男?」
 予想通り怪訝な顔をしてその少年は聞き返す。
「ああ、銀色の髪の・・・」
 するとディアッカの言葉にすぐにピンと来たらしく、表情が変わる。
「それなら、イザーク・ジュールだよ」
「イザーク・ジュール?・・・ジュールって・・・」
 言われて思い返せば、銀の髪に白い肌という容貌はメディア対策としてよく登場する美人の議員にそっくりだった。
「あぁ、きみと同じ、母親が評議員のエリートだよ。本人は学年主席だしな」
 しかし、その言葉に嫌悪の色は見られない。むしろ特別なものに好意を込めて言うようなそぶりだった。
「学年主席? じゃぁエリート組なわけ?」
 目の前の少年がアンチエリートの中間層であることは確認済みだ。
「いや、彼はそういうことを嫌うから、いつも一人でいるんじゃないかな」
 だから屋上にいたのか、ディアッカはそう思った。学年主席のくせに群れることを嫌う、その情報はディアッカにとって、あの少年への興味を引き立てるのに充分だった。
「けど、あいつの前で『女みたい』なんて言わないほうがいいぜ。ぶっ飛ばされるから」
 ついでの忠告とばかりにそいつは言った。
「ぶっ飛ばす? あんな見かけなのに腕っ節強いわけ?」
 ディアッカの質問にその少年は肩をすくめて答える。
「あぁ、見かけと中味の差もきっと学年一だからな」
 今まで何人もがイザーク・ジュールの拳の犠牲になっていると聞かされてディアッカはますます信じられない気分になった。
 あの女みたいなきれいな顔で男どもを殴り飛ばすというのか。
 なら一度くらいオレも打たれてみるかな、と好奇心を刺激されたディアッカは楽しそうに想像を膨らませた。
 その日一日、ディアッカは何人かの生徒にイザーク・ジュールという少年のことを聞いてみたが、どれも似たような言葉が返ってきた。見かけに騙されるなよ、とか、近寄りたくはない、とか、あそこまでエリートすぎると嫌味でもなくなるよな、とか。嫉妬と賞賛、それに多少の畏怖が込められた感想はどれもディアッカの興味をそそるものだった。たとえそれがなくても、あのキレイな外見、それだけでディアッカの気を引くのに充分ではあったけれど。
 放課後、教室の窓から外を眺めると一台のリムジンが一人の生徒を乗せているところだった。
「あっ、あれ・・・」
 ディアッカの声に近くにいた生徒が外を見る。
「あぁ、イザーク・ジュールだろ、あいついつも迎えが来るからな」
「へぇ、お迎えつきのお坊ちゃんなんだ」
 ディアッカの言葉にその生徒は当たり前というように肯定する。
「評議会議員の跡取りだからな。・・・そういえば、君もそうだったっけ」
「まぁな、うちは放任だから。エザリア女史ほど耳目を騒がせるような実力者でもないし」
 ふぅん、とその生徒は意外そうにディアッカを見る。
「それにオレって、こんな見かけだから跡取りとして欠陥品らしいし」
 明るく笑うディアッカにその生徒は触れてはいけないことに触れてしまったという顔をして、そそくさとその場をさっていく。
 その場に取り残されたディアッカは、今までの会話などまるで気にも留めず走り去ったリムジンの行方を興味深そうに眺めていた。






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