一週間後。
 校内テストの結果をもとに入れ替えが行われた初日の朝、ディアッカ・エルスマンの姿は一番上のクラスの教室にあった。
 まだ登校している人間の方が少ないという早い時間だったが、ディアッカは彼を待ち伏せするためにこの時間にやってきていた。時間に厳しい彼は始業の30分前には必ず登校するのだ。
「よぉ」
 教室に彼が入ってきたのを見つけると、ディアッカはそう声をかけた。
「貴様・・・なんだ、その髪は?」
 窓際の一番後ろという指定先に歩み寄りながら、アイロンの効いた制服のシャツをぴっちりと着こなしたイザーク・ジュールはあからさまに驚いてディアッカに向かって尋ねた。
「あぁ、これ? 一回やってみたかったんだよね、前髪を上げるのって。今までは顔隠したかったから下ろしてたんだけど・・・似合わない?」
 整髪料でキレイに前髪をあげているディアッカは確かめるように手を当てて様子を伺っている。
 肌と髪の色あわせが不自然だと思い続けていたディアッカは、そこに紫の瞳が加わることでなおさら違和感を強めるのをどこかで恐れていた。
 だが、あの日、イザーク・ジュールに肌と髪の色が嫌いではないと言われたことによって、隠すことにこだわる気持ちもなくなったのだ。
「・・・悪くはない、貴様には似合いだ。半端に長い髪よりそっちのほうがよっぽどマシだな」
 ふん、と鼻で笑ってイザーク・ジュールは改めてディアッカを見た。
「さすがにちゃんと、ここに来たな」
 2日前に行われた校内テストで、ディアッカの順位は3位だった。
「本当はアンタより上に行きたかったんだけどね。さすがに前の学校じゃ扱ってなかった科目まではカバーできなかった」
 そう言うディアッカは髪型こそ変わってはいるが、制服の着方はだらしなく、ネクタイも形ばかりにしめているだけだった。だが、その表情は以前よりもずっと明るいようにイザークは感じていた。
「扱ってない科目があったのか?」
「あぁ、衛生学とかいうのは普通の学校じゃないよ。さっすがにここはエリート学校だよな、あれメディカルカレッジの入試科目だろー?」
 飄々としていうディアッカにイザークは驚いた顔をした。いくら出題範囲がある程度予告されているとはいえ、学んだことのない科目を含めた成績で3位とはディアッカ・エルスマンの実力というのは予想以上のものかもしれない。こんな人間もいるのか、とイザークは改めてディアッカ・エルスマンへの評価を確認しなおした。







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