「上がって来い、ディアッカ・エルスマン。つまらんことで腐ってるなら上に来てみろ。上にくれば選択肢も広がる。どうせ人を見返すなら楽しい方がいいだろう?失敗作だと笑う人間を高い地位から見下して蹴散らせばすっきりするぞ」
 唇の端を上げてイザーク・ジュールは笑う。その顔はまるで小悪魔の笑みのようでいつも感じる冷たさが消えて中性的で美少女のようにさえみえた。それにディアッカは背筋がゾクゾクとする。
「それって誘ってるってこと?」
 口角を上げて笑おうとしたディアッカだが切れた口が引きつって少しだけ痛かった。
「誘う? そんなつもりはないが・・・。そうだな、だったら来週の校内テストで俺のクラスに来てみろ」
「校内テスト?」
「知らんのか? 毎月一度の校内テストの順位でクラスが入れ替わる。俺の順位はもちろん一位だ。貴様の実力なら本気を出せば簡単だろう?」
 全てを断定的に話すイザーク・ジュールにディアッカはほとほと感心する。彼の言うことに間違いなぞまるで一つもないかのようだ。自分を失敗作じゃないと言い切った言葉すら神の啓示のようにさえ思えてくる。
「校内テストね・・・。それで上がったらどうしてくれんの?」
 しばらく考えてイザークはディアッカを向いた。
「卒業するまで貴様の暇つぶしの相手くらいしてやってもいい」
「暇つぶし?」
「昼は一人で食べる主義だが、屋上で一緒に喰ってやらないこともない」
 それが、暇つぶしかよ、とディアッカは脱力する。だが、イザーク・ジュールというのは自分とは正反対で、正反対すぎて一緒にいたら面白いんじゃないだろうか、とそんな気まぐれがディアッカを支配した。
 どうせ、この学校にいるのだってあと2年だ。それくらいの時間、変わった人間の近くにいてみるのも楽しいかもしれない。イザーク・ジュールのような人間にはそうそう出会えるとも思えない。プライドが高くまっすぐで、けれど、酷く世間知らずのお坊ちゃん。無茶苦茶やるのを見てるのも、止めて恥をかかせてやるのも楽しいかもしれない。こんな性格じゃきっと人とつるんだことなんてないだろうから、一緒にいたら予想もつかないことに巻き込まれたりして、下手に外で遊んでいるよりもずっとスリリングな生活になる可能性だってある。
 それに、あのときのようなワクワクした気持ちをもう一度味わえるなら、そのために一緒にいるならそれは最高の暇つぶしになるかもしれない、そのことがディアッカにはとても魅力的に思えた。
 何より、彼は自分をあの言葉の呪縛から解放したのだ。




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