コイツなら本当に何でも実力で手に入れるくらいはするのだろうな、とディアッカは疑いもせず漠然と思っていた。自分が一方的に殴られるというのも初めての経験だったが、こんなにまっすぐに物をいう人間というのも初めて目にした。政治家のパフォーマンスなどとは違う、真実、自分の力を信じてそれを成し遂げるであろう人間の言葉。知り合って大して時間も経っていないが彼ほどの人間なら間違いなくそれをやるだろうと思えるのは、彼が嘘をつくことなくまっすぐに生きてきたのだとうことがわかったからだ。

「貴様は失敗作じゃない」
 不意にイザーク・ジュールは言った。
 突然のことに彼が何を言い出したのかわからなくて、ディアッカはただそのキレイな顔を見つめるしか出来なかった。
「普通の奴なら、俺の蹴りをまともに喰らったら間違いなく骨折して立ってなどいられない・・・。確かに手加減などしなかったからな。そうして立ち上がっているのは、寸前で避けてダメージを回避したからだろう。そんなことが出来るほどの能力がありながら、それをくだらん理由で腐らせていることが俺は許せないと言っている」
 予想外の内容にディアッカはイザークを見て返す。そこには不適な笑みを浮かべたエリートがいる。
「コーディネーターの世界には、より優秀な人間が必要だ。ナチュラルどもが数に任せてすき放題をしている以上、数で劣るプラントでは優秀な人間が求められている。エリートは必要な存在だ。貴様ほどの人間なら、どんな分野でだって一流になるのは難しいことではあるまい。力のある者はそれを生かすべきだ」
 意外な言葉にディアッカは言葉がでなかった。自分を見下していたはずのイザーク・ジュールが、優秀な能力があると認めているというのか。
「失敗作じゃないって・・・あんたが保証してくれるわけ?」
 自分で聞き返している声がまるで他人の会話のように聞こえながら、ディアッカは自分を睨むようにまっすぐに見ている少年に確かめる。
「失敗作なんかじゃない。この俺が言うんだ、間違いない」
 その言葉と共に青い瞳が自分を射抜くような気がした。彼は黒いコンタクトをしているというのに・・・。
 はっきりと、あきれるくらいきっぱりと言い切ったイザーク・ジュールの言葉に不思議とそれを疑う気持ちは沸いてこなかった。そしてそれとは別に何か言葉には表せないものが自分の内側に溢れてくるのを感じていた。
「言っておくが、この俺が人を認めるなぞ今までしたことないんだからな」
 偉そうにふんぞり返って言うイザーク・ジュールの態度とは裏腹な言葉にディアッカは小さく笑う。
「それって自分で言うことかよ?」
「うるさい。本当のことだ、文句を言うな」
 そしてイザーク・ジュールはディアッカの鼻先にぴしり、と伸ばした人差し指を向けた。





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