翌日もディアッカは屋上に来ていた。
二日目にしてこの学校はほとほとつまらないところだ、ということを彼は見切ってしまっていた。エリート意識の強い上位層と、そいつらと同じ学校にいられることに浮かれている下位層。その中間の奴らも、上位の人間に嫌われない範囲内で上を目指しつつけれど下位層を見下していて、エリート学校にありがちな縄張り意識、階級意識が表面下で激しく渦巻いているということを知るのに彼には一日あれば充分だった。
そういうディアッカ自身は、最高評議会議員の子息という立場であるから、上位層のやつらが自分たちの仲間に取り込もうと接触を図ってきたが、今後の生活の平穏を考えて角の立たない範囲で遠慮をして断った。すると、それをみた中間層の奴らが、上位の奴らの陰口をいいつつ、キミなら歓迎すると自分たち側に立場の強い人間を欲して、見え見えな誘い文句を並べてきたが、ディアッカはそれも断った。
こんな閉鎖的な空間で、無駄ないざこざに巻き込まれてやるほど彼は暇人でもなく、世間を知らない子供ではなかった。
結局、適当に成績をキープしつつ、卒業までおとなしくしているしかないのか。それがディアッカの出した結論だった。少なくとも放課後になれば自由になれる。それが唯一の救いだった。寄宿生活にでもされたら完全に窒息しただろうが、幸いそれはない。
なんとか一日をやり過ごすために、昼休みの屋上行きは文字通りの息抜きになりそうだった。
売店で適当に入手したサンドイッチをかじりながら、缶コーヒーを飲む。うまいとはいえないが、お坊ちゃんに囲まれて愛想笑いをしながら食べるよりかはずっとマシだった。
そうしながら、頭の中で考える。仲間への誘いを断ったとは言っても、それで済むとは思えない。またしばらくすればああいう連中は声をかけてくるだろう。そのときにどう対処するべきか。面倒なことにならない程度に距離をとりつつ、日和見的な立場でい続けるのもそう簡単なことではないだろうし・・・。ディアッカは気楽にすごしたいだけなのに、とため息をついた。
食べ終わったサンドイッチの包みを潰して空を仰ぐ。
「なんとかしねーとな」
そういってディアッカは瞼を閉じた。
「・・・おい」
自分に声をかけられていると気がついてディアッカは目を開けた。
いつのまにか寝てしまっていたらしい。
オレを起こすバカなんて誰だよ、と思ったが、そういえばここは新しい学校だった。前の学校ならディアッカがどこで何をしていようとも誰も咎めたりはしなかったのだが。
そのディアッカの目に飛び込んできたのはキラキラと日差しに輝く銀の光。
真上に上がった太陽を背に、自分を覗き込む人影。
キラキラと輝く、きちんと揃えられた髪。
温度すら感じさせない透けるような白い肌。
女、だと思った。
着ているものは自分と同じ制服だったのに、あまりに強烈な印象で、その認識すら一瞬ゆがめられてしまうほどに。
キレイな顔、だった。
ディアッカを見下ろしているその人物は、サファイアのような濃いブルーの瞳でいぶかしげに睨みながら一言だけ告げる。
「昼休み、終わるぞ」
そして背中を向けて歩いていってしまう。その姿を呆然と眺めながらディアッカは自分がなぜかドキドキしていることに気づかなかった。
3
⇒NEXT<2>