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 勝負はあった。
 本気を出したイザーク・ジュールとディアッカは互角というよりは紙一重の差でイザーク・ジュールの方が上手のようだった。それを理解したディアッカは無駄な反撃はあきらめる。場数が違う分、下手に深入りしない必要性も誰より知っていた。
「んなこと言ったって、コンタクトなんかして言いなりになってんじゃねぇか!」
 ゴホゴホ、と息を吐きながらディアッカはイザーク・ジュールを見上げる。
「コンタクトは自分でリスク管理として最適だと思ったからしてるだけだ。卒業したらやめることにしている。貴様のいじけた考えで勝手に決めつけるな」
 背後に人工の太陽光を背負って、ディアッカを見下ろすイザーク・ジュールの顔は真剣だった。それにディアッカは気後れする。
「何が気に入らないんだ、貴様は?!」
 続けて問いかけるイザーク・ジュールにディアッカはけれど、答えることができない。
「何がって・・・」
「思い浮かばないほどくだらない理由か・・・。おおかた、親への反抗が理由だったんだろうが、それをいつまでも続けてるなんて下らんな」
「偉そうなこと言って、テメェだってただのガキじゃねぇか」
 膝を伸ばし、ディアッカはイザーク・ジュールの向かいに立った。いちいち正論を言うが、ディアッカはそれに反論することがことごとくできない。今までこんなに正面から言われたことすらなかったことだ、ごまかすにも本音を言うにも何の構えもできていなかった。 
「確かに俺は未成年だ。貴様の言うガキが何を指しているのか知らんが少なくともいじけて無駄に時間を過ごしてる貴様よりはマシだ。将来を考えて上に行くためにここにいるし、そのために必要な準備だってしている」
「将来? 親の跡を継ぐんだろ、どうせ」
 ばかばかしいとばかりにイザーク・ジュールに向かって言ったディアッカにイザークはくすりと笑った。
「貴様は意外とバカだな・・・親の跡を継ぐ必要なんてない。政治が面白いと思ったら自分で議員の地位を手に入れればいい。人から与えられるものなどには興味がない。このオレに自分の力で手に入れられないものなどないからな」
 自分の能力について自信に満ち溢れ、微塵も疑っていない者が言う言葉。彼が言うとすべてが本当のことのように思えてくるから不思議だった。








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