痛烈な一言、だった。
学校の教師やつるんでるダチだって自分の存在をどこか遠巻きにしていた。扱いにくい、できればかかわりたくない人間という目で見ていた。
もちろん自分の親もそうだ。こんな肌の色をした息子を父親が恥だと思っていたのは子供心にもわかった。学校で問題を起こしたって警察沙汰になったって、家に帰らなくたって何の反応もしない。ただエルスマンの名前に傷がつかないように、黙って後片付けをしている、それだけだった。だからそれをいいように好き勝手を繰り返してきた。一番酷かったのはたぶん10歳頃で毎週のように警察の世話になっていたけど、それでも変わらない親の態度につまらなくなって大きな騒ぎは起こすのはやめた。その代わりに覚えたのは女と遊ぶことだった。親に対する反抗という意味ではさほど効果はなかったが、親子の関係が崩壊し、冷え切った家に帰る代わりに女の肌に触れて夜を過ごすのは悪くなかった。
けれど、それでも心の内側にいつもあるぽっかりとした空間の虚しさを打ち消すことは出来なくて、どこかでずっとこの肌の色を恨んでいる自分がいるのも確かだった。
だがそんな自分の本性を表に出すようなことをディアッカはしなかった。同情されるなんてプライドが許さなかったし、自分の高い能力をうらやんでいる奴らを見下すことで完成品には足りなかった肌の色のマイナス分を取り戻せる気がどこかでしていたからだ。
「なんだ、図星か」
返す言葉を探しているディアッカにイザーク・ジュールは鼻で笑った。その言葉にディアッカはただ視線だけで睨みつけた。
昔どこかで読んだ言葉に自分をずっと重ねてきた。望まれた姿に生まれてこなかった自分。そんな鬱屈した心情を思わず洩らしてしまった相手がイザーク・ジュールだというのは、うらやんだ挙句の八つ当たりみたいで自分がまだガキだという証拠のようだとディアッカは思った。
「それに貴様は間違っている。その言葉に使役の意味は含まれない。強いて言い換えるなら、母親によって生み出された、ということになるか。母親の胎内で生まれたくないと抵抗していたなら『生まれさせられた』になるのだろうが・・・、貴様はそれほどのバカか」
思ってもいなかった指摘にディアッカはハッとなって視線を上げる。目の前でイザーク・ジュールはくだらないものを見るように蔑んで自分を見ているようだ。確かに彼の言うことは正しい。よくよく考えてみれば、そんな基本的なことに気づかなかった自分はどうかしている・・・。思いもかけず、イザーク・ジュールの言葉によって自分が拠り所のようにしていた言葉はあっけなく意味をなくしてしまった。間違った解釈に自分を重ねていたなんて、まぬけすぎて笑う気にもならない。今までの自分は一体なんだったんだろう・・・。コーディネーターだけじゃなくナチュラルだって自分の意思で生まれてくる人間なんて誰一人だっていない・・・言われてみれば確かにそうだ。だが、そうだとしても望まれたままに生まれてくる人間とそうじゃない人間がいるのは確かで、自分は望まれた姿に生まれてこなかったというのは間違いようもない事実なのだ。
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