「遊び歩いてる・・・へぇ、さすがに詳しいんだ、他の議員の家族のことも」
議員の親を持っていれば同年代の子供のことは会話になるのだろう。ディアッカの家に限っては親子の会話というものはすでになくなって久しいから、他の議員の家の事情なんて知りもしなかったが、ジュール親子はその姿のままに仲良くやっているのだろう、何せ母親のために毎日カムフラージュ用のコンタクトを入れているくらいなのだから。
「全部に通じてるわけじゃない。ただエルスマンの息子の放蕩ぶりは有名だからな」
鼻先で笑うようにイザークは言った。それにディアッカは何故だかカチンとくる。いかにもエリートが人を見下したような笑い。イザーク・ジュールにはそれさえ似合っていて、だから余計にムッと来る。普段はそんなこといわれても気にもならないディアッカだったが、何故かイザーク・ジュールに言われて気に触ったのだ。自分と正反対の存在である人間に見下されることでコンプレックスを刺激され、自然と身についたポーカーフェイスさえ崩れそうになる。
「ふっ、そんなことに囚われてるうちは、貴様はナチュラル以下だな」
秀麗な顔にシニカルな笑みを浮かべて、イザーク・ジュールは黒い瞳でディアッカを文字通り見下した。
それはコーディネーターがナチュラルを語るとき特有の目線。エリート意識の高いイザーク・ジュールとなれば、それは一層激しいものとなる。高い位置から劣ったものを塵芥のように蔑んで見るそれに、ディアッカは体中の血が沸騰するような感覚を覚えた。
「何だよ、それは!ナチュラル以下だなんてどーいう意味だよっ?! テメェっ」
いくらディアッカだってナチュラルと同等に見られるなんて御免だった。下等な生き物と一緒にされてディアッカの仮面は完全に外れた。イザークに向かってその襟首をつかみ取ろうと伸ばした腕は、だが直前できちんとアイロンのかけられた制服の腕に叩き落とされた。
「自分の意思で生まれてくる人間など、ナチュラルにだっていやしない。その言葉だって地球の言葉だろうが。コーディネーターを指してるように勝手に解釈して、貴様は現実から逃げてるだけだ!」
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