「オレは金かけた挙句の失敗作だからな。ありえねーだろ、褐色の肌に金髪なんて。本当はあんたみたいに白い肌だったらしいぜ」
 自嘲的に笑って見せるディアッカにイザークの怒気は削がれた。
「・・・失敗作、だと?」
「最近は忘れてたけど、あんたをみたら思い出したんだよ。この言葉と自分が失敗作だってことをね」
 言ってディアッカは手の甲を見て、それから手の内側を見る。褐色の肌と血脈を感じされる肌色が表と裏で、その違いを鮮明に見せ付けている。
 そしてディアッカは自分があのとき、一番最初にイザークに起こされたときに感じた気持ちがどういうものだったのかを自然と理解した。
 それは忘れていた自分のコンプレックスを酷く痛めつける強い刺激。だが、それと同時に自分とあまりに正反対な完成品である存在に向けて強烈に抱く羨望の気持ち。まるで女神のようだとさえ思った美しさに確かに自分は気持ちを奪われていたのだ、と思う。この肌の色への劣等感さえ忘れてしまうほどに。
「貴様はそれをいつから知ってるんだ」
 イザークの言葉に視線だけあげてディアッカは目の前の少年を見た。あのイザーク・ジュールが自分に対して興味を持ったというのが何だか嬉しい。
「いつだったかな、ずいぶん小さい頃だな。家の使用人が話してたんだよ。母親が妊娠中に具合悪くなってそのせいでコーディネイトが上手くいかなかったんだっていうんで生まれた瞬間から揉め事になって、結局両親は離婚。父親はオレのことを恥だと思ってるらしいし」
 完璧に親に似せられて作られたイザーク。そして、遺伝子操作を失敗した挙句の自分。外見だけでなく随分と好対照な存在だと思う。どちらも親に操作されて『生まれさせられた存在』なのに。それに気づいてディアッカは笑った。
「まぁ、その話はもう時効だけどな」
 所在なげに床を蹴ったディアッカに、イザークは鼻で笑いながら言う。
「ふん、それで貴様はイジケて遊び歩いてるというわけか」
 イジケて、という部分をあからさまに強調していうイザークにさすがだな、とディアッカは思う。そう簡単に他人の不幸話に同情はしない、ということらしい。感情でなく理性で話を聞くことを小さい頃から叩き込まれているエリートな第二世代にはありがちな傾向だ。そしてそんなイザークを冷静に観察している自分も、皮肉なくらいにそのしつけが身についているのだが。







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