「I was born.」
 低く、聞こえた声にイザークが反応した。
「なんだ突然」
 いぶかしんで横に睨むイザークにディアッカは繰り返す。
「英語だよ。 アイ ウォズ ボォーン」 
「そんなものは知っている。その言葉が何だというんだ」
 プラントに生活しているコーディネーターの大半は地球の言語のうち共通語とされているものは大体習得している。英語もその一つだった。
「この言葉の意味知ってる?」
 寄りかかっていた柵から身を起こして、ディアッカは尋ねる。
「私は生まれた、だろうが。だからそれが何だというんだ」
 質問の意味が読み取れず、苛立ちながらイザークは聞き返す。
「まぁそうだけどね。直訳すると『私は生まれさせられた』ってなるんだぜ。気づかないだろ、普通」
 軽く、笑いながらディアッカは言った。だがその内容にイザークは一瞬言葉を失う。思ってもいなかったことを指摘され、同時にそこに込められた意味に気づいてディアッカを向く。
 そしてディアッカはイザークがなんて事を言うんだという顔をしてるのが面白い、と思っていた。
「あんたを見てるとオレとは違う意味でこの言葉を思い出すな」
 イザークの反応に気がつかない様子でディアッカは続ける。
「何が言いたいんだ、貴様」
「あんたみたいな完璧な外見みてると、親がさぞ金かけたんだろうなって思うけどさ」
 コーディネーターは遺伝子操作の結果生まれる。DNAの塩基配列を操作する箇所が増えれば増えるほど、その対価は高額なものになる。あちこちと親の要望が多ければ多いほど、完璧を目指せば目指すほど必要な資金は限りなく高いものになり、その結果として、能力の高い者は裕福な家の子供というのが半ば当たり前となっている。
 そして、親に似すぎるほど似せられたイザークの外見と優秀な能力を考えれば、どれだけ親が金銭をつぎ込んだのかわかる、というものだ。
「なんだとっ」
 侮辱されたと思ったイザークは殴りかかろうと体を起こす。だが、ディアッカはそれを気に留めずに笑っている。




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