細く上がる煙をくゆらせてディアッカは黙って空を見上げる。その色はコンタクトを外したときのイザーク・ジュールの瞳の色と同じだった。
「あんたさ」
 離れたところでフェンスに寄りかかり何も言わずに校庭を見下ろしているイザーク・ジュールにディアッカは話しかけた。
「なんだ?」
「カラーコンタクトなんてしてて嫌じゃないの?」
 黒い瞳をしていてもイザーク・ジュールの美しさは際立っている。だが本当の姿を知ったディアッカにしてみればそれは偽りの姿でしかなく、もはやそれをキレイだとは思えなかった。
「嫌? どうしてそんなこと言うんだ」
 イザーク・ジュールの疑問にディアッカはタバコをコンクリートの床に押し付けて火を消した。そして座ったままイザーク・ジュールを見上げる。
「それって嘘ついてるってことだろ? あんたみたいな性格の人間が嘘つき通すなんて嫌じゃないのかって思ってさ」
 たかがラウンドボールのゲームで反則をしたというだけでそいつをボコボコに殴り倒すような正義感の持ち主なのだ、イザーク・-ジュールという人間は。それはあのテロ現場で無謀にも丸腰で飛び込んで行こうとしていたときにも感じたことだった。そんな人間がずっと人を騙し続けるというのに抵抗を感じないのだろうか、というのがディアッカの疑問だった。
 そんなディアッカの言葉にイザークは小さく笑うと向き直って答える。
「これが何かの道理に反しているというのならそうだろうな。だが、誰を傷つけるというわけでもない。むしろこれは母上のためにしていることだ。髪や爪の色を塗り替える人間がいくらでもいる中で、目の色を変えたってどうってことあるまい」
 きっぱりと言い切ったイザーク・ジュールにディアッカは笑った。それはどこか人を見下したような笑いだった。
「へぇ! あんたってマザコンなんだ」
 母親の政治活動に影響がでないよう、自分がテロリストに狙われるリスクを低くするために偽装している、そうイザークは言うのだ。
「貴様には関係ないだろうが」
 そういうイザーク・ジュールは睨むようにディアッカを見ている。噛み付きそうな目つきのイザーク・ジュールにディアッカは肩をすくめてみせた。
「そんな怖い顔すんなよ。別に文句言ってるわけじゃないんだぜ。ただ母親のためにそんな面倒くさいことしてるってのが新鮮だっただけなんだから」
 そう言ってディアッカは立ち上がると同じ目線になってイザーク・ジュールに並んでフェンスに寄りかかった。








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