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 昼休みになるとディアッカは早々に屋上へと避難を決め込んだ。
 転校初日、親切心と転入生への興味を前面に出してランチを一緒にと誘ってくるクラスメイトを適当にかわしつつ、階段をかけあがる。
 屋上の扉を開けながら、新鮮な空気を吸い込むとディアッカは適当な場所に座り込む。そして、きっちりと結ばれたネクタイを緩めるとシャツのボタンも外す。なれない制服は息が詰まるだけだった。
 フェンスに寄りかかって制服のポケットからディアッカはタバコを取り出した。タバコといっても昔地球の産物だった植物を原料にしたものではなく、無害化された人工合成物でできている。それでも外観は昔のそれに似せられて紙で包まれたスティックの形態をしていた。そして、いつだったか水商売の女がプレゼントとして押し付けた純銀製のライターで火を点す。
 深く吸い込んで煙を空へ燻らせる。こんな学校じゃ以前のように医務室で腹痛と称して昼寝することもできそうもないな、と午前中だけ過ごした新しい環境への感想を思い浮かべた。前の学校はレベルは一般的で家庭環境もさまざまないわゆるパブリックな学校だったが、それだけにディアッカは適当に過ごしておくにはちょうどよかった。勉強なんぞしなくても成績には影響しないし、適当に街へ繰り出すのに面子を掴まえるにも苦労しなかった。女に手を出しても騒ぎになることはなかったし、なったとしてももみ消すのも簡単だった。
 だがこの学校じゃそれは難しそうだった。やろうとすれば不可能ではないだろうが、事前の予想にたがわず良家のお坊ちゃんお嬢ちゃんが多いらしくて、ディアッカの今までの遊び方には眉をひそめる輩が多そうだ。みんな生真面目に制服を着ている姿はまるで軍隊のようで縛られることが嫌いなディアッカにはそれだけで充分窮屈だった。おとなしい振りをすることくらいはディアッカにはたいした問題ではなかったが、それを続けなければならないというのはかなりな苦痛になりそうだ。
 あと2年。そうすればカレッジへ行くことを理由に家を出られる。それまではおとなしくがまんしているしかなさそうだな・・・。
 そう思って空を仰ぐようにしてコンクリートの床に寝転んだ。大きく伸びをしてそのまま腕を組んで枕にする。そして灰が落ちそうになっているタバコを床にこすり付けると目を閉じて居眠りを始めるのだった。
 予鈴が鳴るのと同時に、あらかじめセットしておいた腕時計のアラームが鳴ってディアッカはゆっくりと起き上がった。以前の学校ならいざ知らず、転入初日のおぼっちゃん学校で昼寝したまま午後の授業をエスケープというわけにもいかないだろうとそういう準備をしておいたのだが、起き上がるディアッカの顔はいかにも寝顔そのままだった。
 まだ寝足りないとばかりにあくびを一つすると、のっそりと立ち上がる。そして緩めていたネクタイを締めなおしながら、屋上の入り口の扉に向かう。
「はぁあ。退屈〜」
 伸び上がりながらそう言って階下へ降りるディアッカのことを、その壁際から見ている人物の存在に彼が気づくことはなかった。








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