机の上にPCを立ち上げてイザークは送られてきたデータを開いた。そこにはタッド・エルスマンの家族に関する事項が調べ上げられたこまかな情報が表示されていた。
 現在の家族は息子が一人。離婚して再婚歴はなく、先の評議員議員の選挙で当選。医療プラントの出身で議員になるまでは研究職をしていた。
 息子はディアッカ・エルスマン。CE54年3月29日生まれ。就学までは祖父母の下で育てられていたが、就学と同時に父親の住むプラントに移住。公立の学校に通っている。
 そこまで読んでいたイザークは視線を一点に集中させた。
「これは・・・」
 そこにはプラントに住んでいる子供が一度は受けるとされている知能判定テストの成績が載っていた。3歳児が受けるそれは、親のコーディネートが成功しているかどうかを確かめる意味もあり、就学前の年齢で受けるものとされているのだ。コーディネーターといっても、親が知能以外を重視してコーディネートしている場合も多く、必ずしも全員が高い知能を持っているとは限らない。その未就学児の知能判定テストは結果が通常4段階に分けられていて、一番低いレベルがDとされているが、ナチュラルで天才と言われる人間がDレベルに相当するとされていた。
イザークは一番上の更に上、SAの判定を受けていたが、ディアッカの結果もそれと同じくSA判定だった。SAはごく一部、3%に満たない割合で生まれるとされている。
「ふん、当然か」
 仮にも親が議員になるような家系なのである。能力のコーディネートは当然だろう。だがその割にディアッカは公立の学校で今までを過ごしてきたというのがイザークには納得できなかった。高い能力を持つのならより高い教育を受けて将来のプラントを支えるべきである、と彼は思っていたのだ。プラントの教育レベルはどんな学校でも充実してはいたが、専門的なカリキュラムや教員の質というのはやはり学校で差があるものだった。
 そしてイザークはつぎの項目に気がついた。
「なんだ、この成績は」
 それは今の学校に転入するに当たって形ばかりに受けたという編入試験の成績だった。未就学児の知能判定テストではSAの判定だったというのに、その成績は編入が許されるギリギリのレベルだったのだ。SAの知能を持つ者であるなら、この編入試験でもトップクラスの成績を収めてしかるべきだというのに。
 しばらく考えていたイザークは備考欄を読んでそれに納得した。一流の家に生まれながら、ディアッカ・エルスマンは素行不良な生活をしていたらしい。学校の授業はギリギリしか受けていないし、その成績も褒められたものではない。遊び歩いて警察の世話になったことも幾度もあり、そのたびに父親の力でもみ消してきたということだった。
「わざとか。なんでそんなつまらないことを・・・」
 自分と変わらないくらいの能力を彼に認めた、と思ったのに、イザークは何だか裏切られたような気がした。あれだけの能力があるというのに、それを無駄にしているディアッカ・エルスマンという少年。その、人をバカにしたような飄々とした顔と、あの騒ぎの中でみた瞳の色を思い出し、イザークはやはり彼のことを気に入らないと思うのだった。






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