ゲリラは軍警察に制圧されてあたりやようやく落ち着きを取り戻してきていた。けが人を収容するために担架が次々と運ばれてきて、その場で応急処置を受けているものもいる。
「ママ!」
足元で泣いていた子供がふいに声を上げて駆け出した。見ればその先には母親らしき女性が子供を見つけて駆け寄ってくる。
「アレン!」
小さな子どもを抱き上げながら女性は二人を見て、深々とお礼をする。ありがとうございました、と頭を下げる母親にディアッカは「よかったな」と子供に向けて笑いかけた。そしてイザーク・ジュールに向くと、動かない片腕を持ち上げる。
「何を・・・」
聞き返すイザーク・ジュールに答えるよりも先に、ディアッカはその肩と腕を押さえると体ごと押さえ込んで無理やりに銀髪の少年をしゃがみこませた。
「貴様、何するっ」
「ちょっと大人しくしててくんない?」
低い声でそう制して、ディアッカは力を込めて腕を肩に向けて押し込める。ゴキっという音がしてイザークは顔をしかめた。
「いちおー戻しておいたけど。ちゃんと医者に診てもらえよ」
そういうとディアッカは立ち上がった。
「どこへ行くんだ?」
動くようになった腕に軽く驚きながらイザーク・ジュールも立ち上がり、そう声をかけてくる。
「帰るんだよ。こんなところにいつまでもいたくないしな」
「帰るってそんな格好でか」
ディアッカの着ている服は見事にボロボロだった。上質な生地は破れて、怪我をしてるのか血がにじんでいる。
「どっかで着替えるさ。無理やり着せられた服だから、捨てるにはちょうどいい理由ができたしな」
意味がわからないという顔をしているイザーク・ジュールにディアッカは説明してやる。
「さっきまでいた女が貢いでくれたってわけ。こんなのオレの趣味じゃねーって」
金に困って買わせたわけじゃない。着替えの服など自分でいくらでも買える。
その意味を理解してイザーク・ジュールは顔を真っ赤にした。その反応が面白くてディアッカは笑う。
「悪ぃな。お坊ちゃんには受け付けられない話だったか」
「貴様っ、学校に来ないでそんなことしてたのか?!」
女と一緒にいた、ということがただの買い物の相手だけでないことはイザークにも理解できた。女が男に物を貢ぐような関係がどういうものであるのかくらいはイザークといえでも知っている。だがそれはテレビ画面の向こうの出来事だと思っていた。それを目の前の自分と同じ歳の少年がやっているとは。想像しただけで気分が悪くなってイザークの表情は厳しいものになる。
「あんたには関係ないだろ」
そういうとディアッカ・エルスマンはイザーク・ジュールに背中を向けた。その背中にイザークはそれ以上何も言う言葉を思いつかなかった。ディアッカ・エルスマンは同じ学校の生徒ではあるが、それ以上でも以下でもなく、ただの他人なのだから。
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