ほっとして数メートル離れた位置にいるイザーク・ジュールを確かめると預けた子供をようやく立たせているところだった。子供の無事に安心したのも束の間、イザーク・ジュールは立ち上がる素振りを見せる。
「おい・・・!」
 ディアッカが声をかけてもイザーク・ジュールは構わずに立ち上がる。その姿は隠れていた看板から頭一つ飛び出てしまう。慌ててディアッカは駆け寄ってイザーク・ジュールに飛びついて無理やりに床へ伏せると押さえ込んだ。
「くっ、離せっ、貴様!」
 こんなに目立つ容貌を現せば、コーディネーターの見本のような美しさにブルーコスモスは躍起になって標的にするだろう。警察が来れば逃げることなどできない彼らは半ばヤケクソのように辺り構わず、用意した弾薬を使い切るかのように撃ちまくっているのだ。
「バカか、あんた! 丸腰で何するつもりなんだよ?!」
「これ以上ナチュラルのゲリラなどの好きにさせたままでいられるかっ!」
 それでも食い下がるイザーク・ジュールに、ディアッカは押さえつけていたのと逆の手首を手にとって言った。
「いくらあんたでも無理だ。肩、脱臼したんだろ?」
 その言葉にイザーク・ジュールは怪我を見抜かれたことに驚いてディアッカをまじまじと見た。
「今やったんだろ、それ。オレのせいで怪我したままで無茶なことされても困るんだよ。それで取り返しのつかないことにでもなったらいろいろ面倒だろ」
 イザークが子供を立たせるときに不自然に片腕しか使っていなかったのをディアッカは見逃さなかったのだ。子供を庇おうとして受身の態勢が崩れたのだろう。
「別に、貴様のせいなんかじゃないっ」
 イザークは言うが子供を預けたときは両腕で受け止めていたのだ。ディアッカはそれでもイザーク・ジュールの腕を離そうとはしない。イザークも冷静にディアッカに指摘されて勢いをそがれてしまっていた。
 沈黙が二人を支配する。
 が、それも一瞬のことだった。
 駆けつけた軍警察が突入してきて、あたりはとたんに混乱する。その騒ぎにそれまで大人しくしていた子供が泣き声をあげて騒ぎ出したのだ。
「おい、この子供、どこの子だ?」
 イザーク・ジュールが聞くがディアッカは首を左右に振る。
「知らねー。一人でいたんだよ、オレの前で」
 泣き始めた子供に二人は顔を合わせて戸惑うだけだった。
「知りもしないのにあんな状況で助けたのか、貴様は」
「そりゃ、あんただって同じだろうが」
 その言葉に二人は同じくしてあのときのことを思い出していた。
 目が合っただけで言葉もなく相手の言いたいことが伝わった。それは不思議な感覚だった。
 



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