イザークは銃声を聞いたと同時に反射的に飛び退って植え込みの影に身を隠していた。見渡せばあたりは数瞬で血の海になっており、何人もの体が床に横たわり、なおも銃をめちゃくちゃに撃ち鳴らしているゲリラがまるで制圧したかのように何人も仁王立ちになっている。
「ちっ!ナチュラルどもがっ」
 そう罵るがイザークは武器を何も持っていない。いくら身体能力の優れたコーディネーターとはいえ、丸腰で武装ゲリラに立ち向かうことなど不可能だった。だが、イザークのいる植え込みはゲリラからの距離は充分ではない。あのマシンガンがこちらに向けば植え込みごと撃ち抜かれてしまうかもしれなかった。
 ふとイザークが移動できる先を探して視線を動かしていると、同じように大きな植木の影に褐色の肌の同級生がいることに気がついた。よく見れば3歳くらいの子供を庇うように抱きかかえている。どうやら自分が逃げると同時に助けたらしかった。
「あいつ・・・よくもそんな余裕が」
 自分でさえ身一つで飛び退くことで精一杯だというのに、とイザークは思った。やはり自分の腕をつかんだ身体能力はまぐれではないらしい。冷静にそんなことを思っていたイザークはそのすぐ近くで何かが天井から落ちてきていることに気がついた。ディアッカ・エルスマンは助けた子供をなだめているらしくそれには気がついていない。キラキラと光る破片が落ちてくる方向をイザークが見上げると、そこには巨大なシャンデリアがゲリラの放った銃弾を受けて、大きく左右にゆらゆらと揺れている。そしてパラパラと飾りの一部が壊れて剥がれ落ちていた。
「コーディネーターどもを今こそ抹殺してやるのだ」
 ゲリラのリーダーらしき男が声高にいい、部下たちは勢いを増して闇雲に銃弾を撃ちまくる。そのうちの一人が天井に向けて銃を撃ったときだった。
 シャンデリアを吊るしていたワイヤーに弾丸が命中し、それが引きちぎられるようにしてジリジリと塊ごと下へ向けて落ちていく。それは子供を抱えているディアッカ・エルスマンの真上にあった。
 イザークはそれに気がつくと同時に植え込みから飛び出して叫んでいた。
「エルスマン!!」
 その声にディアッカは一瞬で反応した。顔をあげて呼ばれたほうを見れば、イザーク・ジュールが飛び込んでくる。そしてその透き通るような瞳とまっすぐに視線がぶつかった。
「・・・」
 それは一瞬にも満たない時間だったが、それだけで充分だった。
 パラパラとガラス細工のカケラが降ってくる中、飛び込んできたイザーク・ジュールに腕の中の子供を預ける。それと同時にイザーク・ジュールが着地するのとは逆の方向に自分は大きく飛んでガラスの散る床に受身を取りながら激しく転がった。
 ガシャガシャーン。
 キャアアア。
 シャンデリアが落下する音と新たな悲鳴がすでに地獄絵図のようになったフロアに響く。それに息を呑んでディアッカが見渡すと、ようやく軍と警察が駆けつけたらしいサイレンが遠くから響いてきた。









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