先週あたりに、ディアッカはバレンタインについてイザークと話をしたことがあったのだ。
「今年はプラントだな、14日」
「それがどうかしたか」
「忙しそうだな、と思って」
オレが言うと読んでいた本から目線をあげてイザークはオレを見返した。
「追悼式典には参加しないでもいいはずだが、ほかに何かあるのか」
「いや、そーじゃないよ。その日はバレンタインだろ」
「わかっている、そんなこと」
「本当の意味のバレンタイン、だよ」
意味がわからずにオレの顔を見つめているイザーク。相変わらず俗世間には疎いんだな、と思い知ったが
それこそがイザークか、とあきらめ半分に教えてやった。
「バレンタインは好きな人に甘いものとかプレゼントを贈る日なんだよ。だいたいはチョコレートとかだけどな」
「そういうものなのか」
納得しているイザークはいまいち自分の立場をわかっていないらしい。
「そ。だから、お前目当てにプレゼント持ってくる女の子がたくさんいるんじゃない? だから忙しそうっていうの。
宇宙にいれば関係ないけどな」
「俺は甘いものは嫌いだし、そういう騒ぎはごめんだ」
「そー言って済めばいいけどなぁ」
それきりその話題が終わったが、あのときのことをイザークはまじめに受け止めていた、ということなのだろう。
イザークがいつどうやってあのチョコを買ったのか、考えるとおかしくてたまらない。笑いを抑えながら、
オレは二階へと駆け上がった。
書斎ではなく、寝室にイザークはいた。ベッドにもぐりこみ、布団をかぶっている。
やれやれ、とオレはベッドに座った。
その頭の位置に手を置いてぐしゃぐしゃとなでてやった。
「・・・」
イザークは何も言わない。
「さんきゅーな、これ」
言って手の中の箱をサイドデスクに置いた。
「・・・」
「まさかイザークがオレのために用意してるなんて思わなかったから、驚いたよ」
それでも反応がない。仕方なくオレは布団をめくる。
横を向いて、拗ねた表情のイザークがいた。
「今日お前が不機嫌だってのってさ、やきもち焼いてくれたってこと?」
「・・・知らん、そんなんじゃない」
言葉で取り繕ってもその表情は憮然として、オレの指摘を肯定していた。
「でも、そんなの必要ないのに。オレにはイザークしかいないんだし」
言うとイザークは上半身をベッドの上に起こした。うつむきながら話し出す。
「そんなこと言われてもっ。俺はお前と違って、そういうのに慣れてないし。・・・それに、俺はそんなものもらっても
嬉しくもないのに、お前が楽しそうにプレゼントをもらってニコニコしてるから・・・・・・その、面白くないし・・・」
だんだんと声が小さくなる。それをやきもちって言うんだよ、って教えてやりたいのをぐっとこらえてオレは
イザークをそっと抱き寄せた。
「ごめんな、イザークにそんな思いさせて。オレが悪かったよ」
「別に、お前が謝る必要はない」
腕の中で答える声はそっけなさの中に恥ずかしさが混じっている。イザークなりに自覚はあるらしい。
「そうか? じゃぁこれで許してくれる?」
言いながらオレはベッドサイドのデスクの抽斗から、小さな包みを取り出した。
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