「おい、イザークっ」
薄暗い部屋のなか、同じようなコンテナボックスに囲まれたベッドが見えている。
「……」
足元のボックスのいくつかは開けられ、引っ張り出された洋服があふれ出ていた。必要最低限のものだけ探し出した
のだろう。それらを脇によけながらディアッカは部屋の中へ進む。
「おい…」
相変わらず返事はない。代わりに聞こえてきたのはすやすやという寝息だった。
「人のこと呼び出しておいてこれかよ」
ベッドの上には、イザークがいた。完全に熟睡だった。
「宇宙じゃありえねーな」
戦艦にいるときのイザークはいつも緊張しているためか、常に眠りが浅かった。人の声でもしようものなら
すぐにでも飛び起きるのだが、ディアッカが喋ってもおきる気配すらない。
デスクの上にはPCの電源がついたままになっている。よく見れば着ているものも寝るためのものではない。何か
している途中で睡魔に襲われたということのようだった。
「ったく、……襲うぞ」
その姿はあまりにも無防備だった。普段の彼を知る人がみれば信じられないというだろう。自信にあふれ、
近寄りがたささえ感じさせる雰囲気はきえ、その寝顔は無邪気なものだった。
ベッドに座りながらディアッカは思った。
こいつのこんな姿はきっとオレ以外は知らないんだろうな、と。
シャツの胸元ははだけ、布団を抱きこむようにして寝ている。
「これがあのジュール隊長かよ」
ジュール隊の発足はザフトでは大きなニュースになった。ヤキンの英雄が隊長になるという。戦後処理と体制の
立て直しで落ち着きのなかったザフトにおいて、久々に士気を高める出来事だったから、みんなの関心も高かった。
一部の女性士官などは、その姿を一目見ようと休暇をとって本部で待ち伏せしていたという。
純白の軍服。その姿は凛としていて、彼にはとてもよく似合っていた。新たに配属になった兵士たちは、尊敬できる
上官のもとで働けることに誇りをもって、感激すらしていた。
ディアッカは違う感情を抱いていたが、それは表には出さずにいた。ディアッカ自身もヤキンでの活躍は同僚たちに
知られていたが、イザークは特別扱いはしないと宣言していた。
公私の区別をつけ、毅然とした態度で部下を公平に扱う、エリート中のエリート。
世間の評価はこういったものが多かった。
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