しかし目の前のイザークは完全に子供の寝顔そのものだった。銀の髪が顔にかかっている。ディアッカはそれを 払ってやる。
「…ん…」
 それに反応してイザークは寝返りを打った。すると、布団の下から靴を履いたままの脚が現れた。
「なんだよ、靴ぐらい脱げよ」
 それを脱がそうとディアッカがブーツに手を掛けると、さすがのイザークも侵入者に気がついた。
「……ディア…ッカ…?」
 眠たげにそのまぶたをこすりながら、寝ぼけた調子で聞いてくる。
「ああ、そーですよ、眠り姫」
 答えながら、なれた手つきで靴を脱がしてやる。されるがままのイザークはどこか遠くを眺めているようだった。
 両方を脱がし終えたときだった。
 がっ、と突然ディアッカは思いのほか強い力でその二の腕をつかまれた。そのまま身体をねじるように引っ張り 寄せられる。
「おい、なんだよ。人が脱がせてやったのに」
 横向きでベッドに座ったままの姿勢で上半身だけを眠り姫のほうへ傾ける。
「夢を見ていた…」
 つぶやくようにイザークは言う。
「夢?」
「嫌な、夢だった」
 言ってから顔を横に向ける。その様子に小さくため息をついてから、ディアッカは銀になびく髪に手を伸ばし、 優しくなでてやる。
 繊細なイザークは気持ちの切り替えが苦手だ。特に夢の内容なんて、他人と共有しにくいものに苦しむと後が長い。
人目があれば毅然としていられるが、そうではないとたちまち弱くなる。
 しばらくなで続けているとイザークが弱い声で話しだした。
「お前が、ディアッカが帰ってこなかった。戦争は終わったのに、世の中は平和に戻っていくのに、俺は一人でいる。
隊長になってたくさんの部下を持っても隣にお前がいなかった…」
 目を伏せて言葉は途切れた。
 ディアッカはイザークの両脇に手を突いてその顔を覗き込んだ。
「オレはいるって、ここに」
 その言葉に、確かめるように金色の髪を掴む。
「な、本物だろ?」
 イザークは言葉の代わりに上半身を起こし、そっと口付けた。
 いま目の前にいる存在。そのぬくもりを確かめたくて。
「そばにずっといるって」
 言ってディアッカは細い体を抱きしめる。
 何度も唇を求めてくるイザークにディアッカはつぶやいた。
「オレいま、すっげー、幸せ」
 いたずらっぽく言ってから、首筋に口付けを浴びせる。
 細い肩が大きく上下して、イザークの口から言葉がこぼれた。
「ディア…ッカ、今日、の、予定……」
「予定は変更。オレはお前を今日一日離さないって決めたから」
 一方的に言うとディアッカはイザークの隣に滑り込んだ。
 その腕の中に最愛の人を抱きしめながら。
 
 つかの間の平和。
 甘い休日。
 それは愛する人と過ごす永遠の時間……。


END 

2004/11/29







あとがき

 前作Holdingを書いている途中からこの話は大体できてたんですが、
 書いてみるとなかなかうまく進まなかったです。
 私のイザークって不器用な甘えっ子になっちゃう・・・。
 いいよね、姫だし。
 私は書くならキスシーンの方があまあまになって好きなんですけど。だめ??