shining  star


 ふわり、と体が浮かんだ感覚にイザークはヘルメットの中でそっと目を閉じた。背後には果てのない漆黒の宇宙が深閑と広がっている。いや、背後ではなく今いる場所ですらそのほんの一部であり、すべてだった。

「イザーク?」

 しっかりと手を握っているディアッカが問いかけて黙ったままうなずく。

 ――――そうだ。
 自分はかつて、確かにこの宇宙を駆け回っていたのだ。
 パイロットとして、MSに乗り、敵を討ち、友を助け、信じる道を突き進んだ。
 あれは眩しいほどにかけがえのない時間。

「大丈夫だ」

 そういうとイザークはくるりと体を反転させて仰向けになった。といっても、宇宙の空間には上下なんてないから、乗ってきたシャトルに背を向けたということだ。
 細い腰から伸びるワイヤーがしっかりとシャトルのハッチ付近につながれている。本来は非常用のそれは普段は使われることがないものだが、ZAFTのアカデミーで優秀な成績を修めた彼らにかかれば子供の積み木遊びのようなものだった。チャーターしたシャトルの前方ガラス越しに困惑した顔のパイロットが見える。ディアッカはそれに軽く手を振ると手を放したイザークを振り向いた。
 イザークは大の字になって手足を伸ばしている。それはまるで初夏の青い芝生の上に寝転んで深呼吸するような姿勢だ。実際には空気なんてない空間でノーマルスーツを着ているから供給されるのは機械ポンプから供給される合成されたH2Oでしかないのだがそれでもイザークの表情はリラックスして見えた。

「どう?」

 マイク越しに訊ねるとイザークは楽しそうに口元に笑みを浮かべた。

「悪くないな」

 それにディアッカはほっとして大きく息をつき、慌ててバイザー越しに口を押さえる。実際は抑えることなんてできなかったが。

「なんだ、安心したのか?」

 鋭く、マイクの音を聞きつけたイザークが言う。それに大げさに首を振ってディアッカは否定した。

「いや、俺も久しぶりだから体の力が抜けたっていうかさ」
「ふん、馬鹿にするな、嘘くらいわかるぞ。お前が本当にリラックスしたときは鼻歌でも歌うだろうが。さっきから短くて浅い呼吸ばかりしてきっと目は馬鹿みたいに心配そうに俺のこと見てるんだろ? 見えなくたってそれくらわかる」

 そういうとイザークは目を開いて何も映さないスカイブルーの瞳を宇宙へ向けた。

「イザーク…」









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