誕生日に何が欲しいかと聞かれて、イザークは『休み』としか答えられなかった。
だけど、本当はもう欲しいものなんてないのだ。
一度だけ、信じてもいない神様に本気で願った。
行方不明になって戻らなかった同僚を、お願いだから返してくれ、と。
血を吐く思いで縋ったあのときに、自分が欲しいと願うのはこれで最後だからと言い聞かせたのだ。
そして自分はもう、それを手にしてしまったのだから。
いつも傍にいるたった一人だけの存在を------。
誰もいない、二人だけの空間。
緑濃く広大な敷地に立つ戸建のコテージは、嫌味なく落ち着いたたたずまいで、それが軍の保養施設だと知らなければ、ちょっと豪奢な個人の別荘だと思う人間も少なくないだろう。敷地内にはテニスコートにプール、アスレチックジムがあって、その地下には射撃場がありそれだけが軍の関係施設だと思わせるが、休息を求めてやってきた地でそれが使われることはほとんどなかった。
ランチを食べて一通り敷地内を探索してから部屋に戻ったイザークは、ディアッカのいれた紅茶を飲みながら本を読んでいたのだがいつの間にか眠ってしまっていた。
テラスのチェアとオットマンに足を載せてうとうとと眠っているイザークを見つけたディアッカは強くなった日差しにシェードを下ろしてやる。胸に抱いた本をそっとテーブルに置くと、その頬にキスをした。
そして起こさないように気をつけながら、ディアッカはそっとその場を後にした。
『神様、どこかにいるのなら、お願いだ! 頼むからあいつを、ディアッカを返してくれ!』
艦の狭い部屋で一人、毎晩のように泣きながら訴える。
いくら泣いても涙というのは枯れることがなくて、ただ体が少しだけ細くなった。
冷たいベッドに寝るのがこんなに辛いことだなんて、誰も教えてくれなかった。
あいつのことだからMIAなんていってもすぐに戻ってくるに違いない、そう思っていたのに、ぜんぜんそんな気配はなくて、時間ばかりが過ぎていった。
そうして、泣きすぎて、泣くことの意味がわからなくなった。
いくら願ってもやっぱり神様なんているわけがなくて、願うこともしなくなった。
『もう神様なんて信じない! どうせ俺の願いなんて叶うはずないんだ・・・』
そう言いいながら、どこかでぽっかりと開いた穴に冷たい風が通り過ぎるのを感じていた。俺は一人になったのだといつも感じながら。
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