「着替えは自分でするんだろ?」
「わか…ってる」
 以前、着替えないでいるイザークにディアッカが服を着せてやっていたら、理性がぶっとんでそのままイザークを  押し倒してしまい、大遅刻ということがあった。それ以来、着替えはイザークが自分でするということになっているのだ。
 のそのそとベッドの上に用意している着替えに手を伸ばす。
 それを眺めながら、ディアッカはこれでよく隊長が務まるよなと思ってしまう。こんな惨状を毎朝のように 繰り広げながらも一歩廊下にでると、半分以上意識は眠っていても隊長らしい振る舞いをほとんど無意識に やってしまうのだ、イザークは。きっと本当に目が覚めてくるのは食堂で朝食をとってしばらくしてからなのでは ないだろうかと思うが、その境目はいまいちはっきりしていない。
 下着姿になってアンダーを身につける。それを確認するとディアッカは自分の身支度のために洗面スペースへ向かった。
 ヘアムースとワックスで髪を整える。それから、使ったリネンを隊長室の特別施設であるランドリーに放り込む。
 これが毎朝のディアッカの日課だった。
 洗剤をいれてそのスイッチをセットしながら、ディアッカはイザークがどう反応するかを楽しみ半分、恐れ半分で想像した。
 いくらイザークが寝ぼけていてもいつもと違うボトムには気がつくだろう、と。けれど、怒って脱いでしまう前に、  その姿を見ておかなければと思い慌ててイザークの元へ戻る。
「あれ?」
 ところがいるはずの場所にイザークはいなかった。悪い予感がして時刻を確認するといつもより10分ほど遅い。
 それを見たイザークは大急ぎで出て行ったのだろうか。
 まずい、とディアッカは私用スペースをでて、廊下へとつづくオフィシャルスペースに 駆け込んだ。
 が、それは一瞬遅かった。
 プシュッと音がして、白い軍服が廊下へと歩み出ていた。そのすそからは白い脚がわずかに見えている。
 げっ!!!!
 ディアッカにも予想外の出来事だった。彼の予定としては、着替えの途中で気づくか、それでも気づかなければ 外に出る前に適当なタイミングでばらして軽くイザークに怒られて終わり、という筋書きだったのだが。
そのための時間の確保に、時計を進めることまでしたというのに。
 すでにその努力も意味がなくなり、事態はそれ以上に恐ろしい局面を迎えていた。
 運悪く、イザークが出た廊下には、数人の隊員がいたのだ。
 彼らは一瞬緊張して敬礼した後に、全員が硬直した。その目線が隊長の膝の辺りに集中する。
 しかし誰も言葉を発することはできない。
 わわわわ!
 動転するディアッカの視線のさきで、寝ぼけながらも隊員の様子に違和感を覚えたイザークは自らの膝を曲げてそれをみた。
「・・・・」
 膝頭が見えている。そして、上着のすその下に、さらにすそがある。
 寝ぼけた頭で理解するには数瞬の時間が必要だったが、それでもコーディネータートップクラスの頭脳はすばやく事態を  理解した。その瞬間に隊長は無言のまま自室を振り返る。そしてプシュッと音がしてその姿がドアの向こうに消えた。
 ドア越しに聞こえた怒鳴り声を耳にした隊員たちはお互いに無言のまま、今のことは口外すまいと一瞬にして誓うのだった。





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