「ったく、オレがなんで、制服なんて」
ディアッカは軍本部の一角にあるビルに立ち寄っていた。
隊長になって忙しいイザークはとことん自分のことを使ってくれる。
今日は軍服を取って来いという命令だった。ついでに自分の分も取ってこようと思うが、その色が緑であることを改めて自覚する。
「イザークは白、か」
その姿は凛としていてすごく似合っている。赤を着ているときは自分も同じ色だったからそれほど考えたこともなかったけれど、違う色になって改めて見てみると、イザークには赤よりも白が似合っているんだと思った。
受付の女性にIDを照合してから、制服の受け取りを申し込む。
「ジュール隊、ディアッカ・エルスマンさんですね」
言いながら、個人データからサイズを確認して打ち込むと指定されたサイズの制服がすぐにコンピュータでピックアップされて手元に届けられた。
「こちらになります」
緑色の制服を受け取りながら、ディアッカはもうひとつのサイズを申し込む。
「あと隊長の分も持っていくように言われてるんだけど」
「ジュール隊長ですか?」
「そう。サイズはそっちでわかるよな」
「はい・・・」
手元のパネルを操作しながら受付の女性は微妙に表情を変えた。
「なに、どうしたの?」
ディアッカはその手元を覗き込む。
「え、いえ。サイズにちょっと驚いて」
ディアッカはピンときた。イザークはとにかく細いのだ。周りの女性士官に比べたってかなり細い。隊長という地位からするとそのサイズはイメージではなかったのだろう。
「ああ、うちの隊長、かなり細いからね。サイズはあるんだろ?」
ディアッカの打ち解けた物言いに、受付の女性はにこやかに答える。
「あるのはありますけど。これだと女性サイズのほうが合いそうですね」
それを聞いたディアッカはあることを思いついた。
「へぇ、そのサイズのスカートとかあるんだ?」
「ありますよ、余裕で。ウエストサイズなんて女性の平均くらいなんじゃないですか?」
言いながら女性は手続きをしている。まもなく手元には白い隊長服が届いた。
「こちらです」
それを受け取りながら、ディアッカは女性に顔を近づける。
「お願いがあるんだけど」
「えっ?」
ハンサムという部類の上位にランクインするディアッカが甘い表情と声色で誘惑をささやく。
「このサイズのスカート1枚もらえない?」
女性は一瞬理解できないという顔をした。
「えっ、そんなこと・・・」
「できなくはないでしょ? 頼むよ」
言いながらウインクする。ディアッカはイザークとは違って、自分の容姿の力を十分に理解していた。
「でも・・・」
躊躇している女性の手をとると、その甲に軽くキスをする。それだけで賄賂は十分だった。
「誰にも言わないでくださいよ。あと返すときは必ず私に直接渡してくださいね」
手早く操作して、白いスカートが手元に届く。
それを受け取りながら、ディアッカはもう一度女性に向けてウインクをしてその場を立ち去った。
帰り道でディアッカはイザークにいかにしてスカートを履かせるかという企みで頭がいっぱいだった。なんで今まで思いつかなかったんだろう。あの細い腰ならスカートくらい余裕で履けるはずなのに。
別に、そういう趣味があるわけではないけれど、なんとなく見てみたい気はする。そうじゃなくても、美女と見まごう容姿なのだから、スカートなんて履いたら、絶対女にしか見えないだろう。そう思って想像してみると、ものすごい
楽しみになってきた。
とはいえ、相手はあのイザークだ。スカートなんて簡単に履くわけはない。
「どーするかなー」
イザークのことを理解しているが、理解しすぎているがゆえにその困難さもよくわかっている。
「ジョークなんて通じないしな」
そうなると、罰ゲームか素面じゃないときか、に場面は限定されてくる。けれど、どちらも今のイザークには縁がなさそうな場面だった。
罰ゲーム、といっても、ディアッカがイザークに勝てるのは体力勝負だけだったが、それはイザークもよく理解しているから負けるとわかっているゲームに乗るはずはない。昔だったら、負けず嫌いを利用してふっかけるのも
簡単だったが、隊長なんて立場になってからは、なんだかんだと落ち着きなんてものも身に着けてきていたから、そうは簡単にはいきそうもないし。正気をなくすほどに酒を飲むことだってありえない。
「そうなると、やっぱあれかな・・・」
一人つぶやいてディアッカは作戦を組み立てた。そして計画をいつ実行に移すかという問題だけだな、とその先の姿を想像してこみ上げる笑みを抑えるのだった。
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