二人に会話はなかった。
いつもそうだ。
イザークが墓参りをしたあとはしばらく黙り込んでしまう。まるで死者との対面を引きずって、自分まで向こう側にいってしまって戻ってこないようで、心ここに在らずなイザークにディアッカは話しかけることができない。
彼らの墓前で何を話したのか聞くことなんてディアッカには許されない。思いつめる性格のイザークが自分にではなくもうこの世にはいない者たちにだけ打ち明ける話がどんなものなのか。ヤキモチだといわれればそれまでだが、ディアッカの独占欲はそんなことでさえ許せなくて自分自身を苦しめる。
目の前の濡れた白い背中は何も語らない。だが、今イザークの心の中にあるのはすぐ横を歩く自分ではなく戦いに散った者たちだというのは明らかだった。横から顔を覗き込んでみても、その視線にさえ気がつかずに歩き続けているのだから。
やがて二人は戦没者墓地の隣にあるパーキングに辿り着く。雨のために墓参客は早々に引き上げたらしく、そこにはディアッカの乗ってきたエレカが一台だけ止まっていた。
無言のままイザークはそこへ歩を進める。
乗り込もうとドアに手を掛けてようやくイザークは自分がずぶ濡れだということに気がついた。何か拭く物はないか、と聞こうとしてイザークは思い出したようにディアッカを振り返った。
「いやだ・・・」
ふいにディアッカが小さな声で言った。
「ディアッカ?」
前置きもなく発せられた言葉にイザークはその意味を量りかねて、傘をかざす副官を見る。
「そんなイザーク、オレは嫌だ・・・」
まるで泣きたいのを堪えているような表情で、イザークは不思議そうに顔を傾げた。
「何を言ってるんだ、お前」
嫌だ、といわれるような何かを自分はしているわけではないというのに。唐突に言い出したディアッカをイザークはまるで理解できなかった。
「バカだとか、くだらないとか言われるのはわかってる! けど、イザークの心が死んだ奴らに向いてて戻ってこないのは嫌なんだ・・・」
告白の内容にイザークは本当に驚いた。そんなことをディアッカが考えていただなんて思いもしなかった。驚いて自分を見つめるイザークにディアッカは続ける。
「雨に濡れるのも構わずにずっと話し続けて・・・、オレはそこには入り込めなくて。隣にいるのにイザークの心が戻ってくるのを待ってるしかできないなんて、そんなのは嫌だ」
傘を持たない手をぎゅっと握り締めて、下を向いたディアッカにいつもの余裕たっぷりの飄々とした副官という雰囲気はまるでなかった。子供が駄々をこねるように幼い、あきれるような態度だ。それが自分の行動のせいだというのがさらにイザークを驚かせる。知らずに自分はこの男を苦しめているというのか。
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