ふいに、イザークの頬を流れ落ちる雨が途切れた。
 それに気づいているのかいないのか、白い服を纏った人物はしゃがみこんだままだった。その様子に構わずに、傘を差し出した人物はその人の気の済むまで黙ってその傍らに立ち続けている。
 それからしばらくして、気がすんだのかイザークは立ち上がりながら傘を差し出した副官を見上げた。
「済んだの?」
 聞かれた言葉に隊長はだまったまま頷く。
「雨が降る前に来たかったんだけどね、間に合わなかった、ごめんな」
 行き先も知らせずに勝手に来ただけなのに、そのフォローすら完璧を目指そうとする副官に、イザークは苦笑した。
「よく、わかったな」
 ここにいることが。
「ああ、今回は戻ってからまだ来てなかっただろ」
 イザークは、プラントに戻るたびに時間を作り出しては必ず戦没者墓地にやってくる。かつての同僚と自分の部下だった者の墓を訪れるために。
 そして今回は宇宙から戻ったものの、まだここには来ていなかったから、午後から休みを取ったと聞いてすぐにディアッカは思いついたのだった。
「そうか」
 イザークの言葉はいつにもまして少ない。その様子にディアッカは自分の心を抑えるのに必死だった。
「イザーク・・・」
 呼びかけたディアッカの言葉は続かない。
「なんだ?」
 傘の下に入ってはいるが既に濡れているイザークの銀糸の髪からは雫がぽたぽたと落ち続けている。
「いや、なんでもない。戻る?」
「あぁ・・・」
 黙ったままイザークは歩き出した。イザークがこれ以上濡れないように気をつけて歩きながら、ディアッカはそれに続く。
 傘からはザアァと雨の当たる音がして、足元はどんどん悪くなっていく。イザークの髪からは水滴がいくつも落ちて、長い上着の裾は水の重みで歩くたびに重くズボンに張り付くようだった。


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