「真ん中にはなかなか当たらなくて」
そういってディアッカを振り返るシホの顔は自信に満ちている。
所詮、緑とは格が違うと言いたいのだろうか。オレもいちおー、赤だったんだけどね・・・。内心でそう思いながらディアッカはそれを表には出さずにニコリと笑う。
「それだけ当たってれば十分でしょ?」
その言葉にディアッカに逃げられると思ったのかシホは慌てた様子で言った。
「そんなことないです! 急所を一撃で撃つことができなければいけないって隊長が言ってました」
隊長がねぇ・・・。あいつがどんな顔してそんなことを言ったのか。考えるとディアッカは笑いそうになる。アカデミーの射撃のテストでは僅差で一位になったものの、アスランが熱を出していたからあの結果には満足していないとずっとこだわっていた人間が偉そうに部下に指導してるなんて。隣にいて見てみたいもんだな。
そんな考えにふけっているディアッカにシホが声をかける。
「だから見本みせてください」
「見本〜?」
にこやかに言うシホにディアッカは眉根を寄せて語尾を上げた。
「はい」
その声にギャラリーの視線が集中するのがディアッカには分った。
どーしたもんかね。ディアッカは思った。
緑の一般士官としておとなしくしているつもりが、隊長のお気に入り扱いに反感を持たれて実力試しをされることになるとは。イザークの人気っぷりも考え物だな。できれば他のやつらとは波風立てたくなかったんだけどな・・・・・・。
かといってここで無様な姿をさらせばそれはそれでディアッカを登用したイザークへの不信の種になりかねない。ディアッカとしてはそれだけは避けなければならなかった。
自分と違いエリートとしての道を未だに昇っていく恋人の経歴に汚点を残すようなことだけは何があってもするわけにはいかない。
そう思うとディアッカはやれやれと大きく息をつきおもむろに銃を手に取った。
「1回だけで勘弁してくれよな」
言って手元のパネルを操作してターゲットに向かう。
その瞬間にディアッカの瞳からいつものふざけた表情は消え去った。
パン、パン、パン、パン・・・・・・・。
ポップアップする人型のターゲットの急所にディアッカの撃つ弾は次々と吸い込まれるように消えていく。その命中率は明らかにシホのそれを上回っている。驚きに射撃場にいた全員が息を呑む中でディアッカは30発の弾を撃ち終わり、ボードにはランクSと表示がされていた。
実はディアッカは射撃が下手というわけではないのだ。
アカデミーのあの期、同時に入学したメンバーがありえないほど優秀な人材が集まったというだけの話で、一般的な赤服に比べれば十分に優秀なのだった。そのディアッカがイザークのために少しばかり本気を出したのだから、いくら赤をまとうシホといえども敵うはずがなかった。
アスランにしろイザークにしろ、何期かに一度いるかいないかというほどの優秀な人材なのだが、それが同じ期に集中していたために他の人間は目立たなくなっていただけの話なのだ。何しろあの期の赤服は史上最強としてアカデミーでは伝説にすらなっているらしい。といってもアスランとイザークに限った話のようで、脱走したディアッカに関しては体裁を気にしたアカデミーが暗黙のうちに存在を抹消しているらしく、おかげでいまこうして経歴の怪しいやつとして挑まれる羽目になっているのだが。アスランとイザークの争いなんて、一発を数センチ外すかどうかというレベルだったから、あれを基準にされていた当時の同期生は気の毒というものだろう。といってもディアッカは特にそれを気にしていたわけではないのだが、今になってそんなことを思い出していた。
「・・・ふう」
軽く息をつくディアッカは、言葉を失っているシホには気づかないフリをしてヘッドホンを外す。
「こんなんで見本になったかな?」
そういうディアッカの言葉にシホは我に返ると慌てて返事をした。
「あ、はい。ありがとうございます」
「ついでに、アドバイスってほどじゃないけど、もう少し構えのときに肩を下げるといいと思うよ?」
その内容にシホはさらに驚いた。それはアカデミーの授業でさんざん注意されていたシホのクセだったのだ。それをディアッカはあの一度だけで見抜いてしまったのだ。
「・・・ありがとうございます」
完敗、という表情で頭を下げるシホに、人前で赤を負かしちゃって悪いことをしたかな、と思うディアッカだったがイザークのことを思えばたとえ女の子相手であっても譲るわけにはいかなかった。ディアッカはウインクをしながら、がちがちに固まってしまったシホの肩を軽く叩くと射撃場を後にした。
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