Proof of love




「今日付けで配属になったディアッカ・エルスマンだ」
 毎朝のミーティングの席で、隊長であるイザークの紹介を受けて緑の軍服を着たディアッカは前に立って挨拶をした。
「ええと、ディアッカ・エルスマン・・・です。よろしくお願いします」
 明らかに自分より年下の隊員がほとんどだが、新参者としてディアッカは一応の礼儀とばかりに丁寧な言葉で挨拶をした。それを横目で見ていたイザークは不似合いな彼の言葉に口の端をあげてにやりと笑っている。
 兵士だけではなく、一部のオペレータの女性などはディアッカの容姿に目を奪われている者もいたが、その雰囲気は隊長の次の一言で一蹴されてしまった。
「彼には私の副官をしてもらう」
 ざわりとその場の空気が変化した。
 隊員のほとんどがユニウス条約以降に新しく編成されたジュール隊として配属されたようなものばかりで、ディアッカの前歴を知るものはいなかった。だから、いきなり配属になったばかりの人間が隊長付きの副官というのは寝耳に水もいいところで、驚きを通り越してディアッカに不信感をあらわにするものさえ見られた。その筆頭がシホ・ハーネンフースだった。
 シホは、正式な副官がいない今までは隊長の秘書のような役割までこなしていたためにそれを横取りされた形になったのだ。本来ならパイロットとしての仕事に専念できるのだから、喜ぶべきところなのだが、隊長に心酔してるシホとしては、新参者にその地位を奪われたのは快いはずがなかった。
 一番前の席でそのシホの表情の変化に気がついたディアッカは、内心やれやれと思いながら、そこは何事もないかのようにふるまったのだった。


「シホちゃんて、昔のイザークみたいだな」
 ミーティングを終えたイザークについて隊長の私室に入ったディアッカは言った。
「どこがだ?」
 シホとろくに会話もしてもいないのにそういうディアッカにイザークは不思議そうな顔をする。
「隊長大好き〜って思い切り心酔しちゃってるっぽいところとか」
 それにイザークは苦笑する。ディアッカの指摘が間違ってないどころか、的確にシホを分析しているからだ。そしてそれを昔の自分と似ているというディアッカの言葉に苦い過去を思い出す。自分もエリート部隊と言われていたクルーゼ隊の隊長を心から尊敬していたのだ。それが本当はどういう人物であったのか聞かされたのは、ディアッカがプラントに戻ってからのことだったが。
「・・・まだ若いからな」
 デスクチェアに座ってPCを起動しながら言うイザークに、その隣に立ちながらディアッカはさらに続ける。
「でも、そーいう子からすると、オレの存在って気に入らないんだろーね」
「何故だ?」
 見上げたブルーの瞳を見下ろしながら笑ってディアッカは言う。
「だって誰かさんは同じ赤着てたって隊長の指示がそいつにあるだけで不満だったろ? なのにオレって緑じゃん?」
 面白いわけないでしょーと言外に含めてイザークを見る。するとイザークは前半部分に関してはディアッカに蹴りを食らわせておいて、余裕の表情で続ける。
「おまえうるさいぞ!・・・それに服の色など関係ない。俺は実力で判断するだけだ。お前の実戦経験は下手すればよその新設部隊の隊長よりも上だ。うちの赤でも敵うことはない・・・」
 蹴られた脚をさすりながらディアッカは嬉しそうな表情でイザークを見る。
「へぇ、オレの評価ってずいぶん高いんだな」
 紫の瞳に浮かぶ誘惑の色を見て取ってイザークはそっけなく目をそらす。
「ふん、俺が今まで戦闘中に背中を守らせたのはお前だけだからな」
 その言葉にディアッカは軽く息を呑む。うれしいこと言ってくれちゃって、という余裕よりも先に素直なイザークの言葉に驚きを隠せない。先の戦闘を経てディアッカが変わったのと同じようにイザークもまた成長しているということか。
「過大評価にならんようにするのがお前の仕事だ。せいぜい昔みたいなヘマをしないことだな」
 睨むようにして言うイザークが、捕虜になったことを指摘しているのに気づくと、ディアッカは苦笑しながら「りょーかい」と言い、上官となった恋人にそっと口付けを落とした。




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