Morning kiss




 ぱちり、と珍しくイザークは目が覚めた。
 いつもは寝起きが酷くて飽きれられるほどだというのに、どういうわけかまるでスイッチを入れるようにくっきりと目が覚めた。
 目に入るのは柔らかな日差しと、見慣れた天井。
 そして気づいたのは握られた右手。
「そうか・・・」
 夕べ、一度寝入ってから夢にうなされて起きてしまった自分を寝かしつけるためにディアッカは右手を握ってくれたのだ。
 起こしもしないのに、気配に気づいて起きて。
 頼みもしないのに、手をつないで寝ようと言ってくれた。

 まったく、何処まで人の心を読めば気がすむというのだろうか。
 理解の良すぎる恋人がいつも近くにいるから、いつまでたっても自分は子供のままなのだとさえ思う。自己主張なんてしなくたって理解されて、要望を伝えなくたってかなえられてしまう。
 こいつが隣にいるようになってから、自分への世間の評価はずいぶんと好転したように思う。少なくとも、風当たりは以前よりはずっとマシになった。わがままだとか何を考えているのかわからないだとかいう批評の声は聞こえなくなった。きっと自分のいないところでいらんことに気を回してフォローしていたりするんだろうことは予想がつく。無器用な自分を補って余りあるくらいに、器用に立ち回るやつだから。それでどれほどいらぬ苦労をしているかはわからないけれど。
「バカなやつ・・・」
 口から出たのは言葉とは裏腹に、柔らかな声だった。
 つないだ手はそのままに体を横に傾ける。
 すぐ目の前にはまだ寝息を立てる穏やかな顔。
 すっきりとした鼻梁に意外と長いまつげ。下ろされた前髪は額を隠し、いつもよりずっと幼く見える。
 空いた手でその髪に触れてみても、少しも起きる気配はないほどに熟睡しているというのに、握られた手を離す気配なんてまるでない。
『朝までちゃんと握っててやるから』
 そういった言葉を律儀に守っているのが、どこかこそばゆく感じられる。
 自分のためには一生懸命な恋人。
 きっとこんな男だったら、どんな女だって放っておかないだろうなと思うと同時に、自分もすっかりこの存在なしではいられなくなっていることに気がついて苦笑する。
 器用とはいえない自分が、こいつがしてくれることの半分も返してやれてないのは充分承知しているけれど。それでも全然構わないと言ってくれるから、ついそのまま甘えてしまうのだ。そしてそういう関係がとても心地よくて。
   





⇒NEXT