「お前の家? オレの部屋?」
 車窓を流れる景色に気をとられているイザークにディアッカはたずねた。イザークの家は郊外の住宅地にあるが、ディアッカのものは街中の高層マンションの一室だ。お互い、どちらの家にも出入り自由なのだから、あえて二人は違う場所に部屋を持った。忙しいときは利便性のよいディアッカの部屋を使うし、ゆっくりと休むときにはイザークの家を利用するのだ。
「とりあえず、休みたい」
 短い返事にディアッカは了解した。イザークの家までの所要時間に比べると、ディアッカの部屋はその半分以下の時間で到着する。久しぶりのプラントでとりあえず休むというのなら、マンションで十分だろう。それに、今度はすぐに自分が宇宙へ出るのだ。そうそうゆっくりはしていられない。隣で目を閉じたイザークをちらりとみやるとディアッカは少しでも早く家に着くように、とアクセルをふかした。

「食べるものは一通りあるけど、何かいる?」
 マンションのパーキングで車を降りながらディアッカは聞いた。
「いや、いい」
 車内で少し寝ていたためか、イザークはけだるそうに答える。
 イザークの分の荷物も降ろしながらロックをかけるディアッカにイザークは聞き返す。
「次はいつだ?」
 具体的な単語はひとつもないが、彼が何を気にしているのかはディアッカにも解っていた。
「あさって」
「そうか。また短いな」
 さして感慨もないようにイザークは言うが、ディアッカはその裏にあるものを読み取って明るく言った。
「でも今回は30時間以上あるぜ」
 前回は3時間しかなかったのだ、二人で過ごす時間が。それに比べたらずっとマシだ。
 ディアッカの言おうとすることを理解してイザークはその顔にふわりと笑みを浮かべた。
「ああ、そうだな」
 言いながらエレベーターのボタンを押してドアを開く。その中に吸い込まれながら、二人はその部屋のある階へ向かった。

 ディアッカの名義の部屋は高層マンションの角部屋だった。視界が開けているというのもあったし、左右の部屋からは共用スペースを挟むためプライバシーの面でも独立性が十分だった。もっともそのマンション自体が庶民というよりはランクの上の住民に向けて造られていたから、部屋がどこでも大差はなかったのだが、その眺めを気に入ったイザークの鶴の一声で決まったようなものだった。
「おかえりなさいませ、姫」
 玄関のセキュリティロックを解除しながら ディアッカがおどけて言った。
その横顔を軽く睨みながら、イザークは開けられたドアを入っていく。後について入りながら、ディアッカは床に荷物を置くとドアが閉まるや否やイザークの体を後ろから抱きしめた。
「会いたかった・・・!」
 腕の中に抱きしめながら、ディアッカは耳元で告げた。
「そんなの、お前だけじゃないぞ、バカ!」
 返すイザークはその腕を解くと、自分から抱きついて唇を重ねた。
 久しぶりに会う恋人の体をしっかりと抱きとめながら、ディアッカもそれに応える。お互いに、相手のぬくもりを確かめるように、何も言わず、ただただ熱い口付けを交わすのだった。





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