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 廊下を連れ立って歩く二人の姿はかなり目立つもので、すれ違う大半の女性は立ち止まっていた。
 銀髪の青年の名は、イザーク・ジュール。ジュール隊の隊長にして、戦後一時期評議員をつとめていたこともある。
 もう一人はディアッカ・エルスマン。彼も同じく自らエルスマン隊を率いる隊長だ。
 二人ともすらりとした長身に整った顔立ち。そして容姿以上に優れた実績がZAFT中に知れ渡っており、若い兵士たちからは羨望のまなざしを集めるエリートである。
 その白服二人が肩を並べて歩いているのだから、人目を引かないはずはない。
 とはいっても、ディアッカの襟は詰襟からはずされて開いている。そんなラフな格好が許されるのも彼が白服という立場だというのもあるし、それが彼のキャラクターとあいまって似合っているというのが理由かもしれない。それに、唯一彼に対してそれを注意する白服の同僚は、見事に根負けして、今では公的な場面をのぞいては彼の服装について注文をすることもなくなっていた。

「久しぶりだな、お前と会うのは」
 すれ違う士官の敬礼に返しながら、イザークは言った。もちろん、隣の人物に対してだ。
「そうだな、4ヶ月ぶり?」
 同じように挨拶を交わしながらディアッカも応じる。
「違う、3ヵ月半ぶりだ! 要塞で会っただろうが」
 ムキになって言う口調はまだ隊長としての威厳を残してはいるが、それでも普段とはまるで違う。
「ああ、そうだった。でも、あんなの会ったうちに入んねーって」
 そのときはメインホールですれ違いざまに挨拶をしただけだったのだ。
 あんなもの会った回数に入れてたまるか。キスはおろか、その腕を引き寄せることもできなかったのだから。
 そんなディアッカの思考を読み取ったようにイザークは笑った。
「そうか? 俺はお前の姿が直に見られただけで、ずいぶん気持ち的に違うんだがな」
 そんなことをこともなげに言う同僚にディアッカは肩をすくめてみせた。
いつも、会わなくなってしばらくすると、それに耐えられずに先にメールを寄越すのは他でもないお前だろうとは口に出さずに。
二人は互いに行き先を確認することもなく、自然とカーポートに来ていた。軍所有のエレカがいくつもならんでおり、IDを確認することによって自由に利用することができる。ディアッカが当然に運転席につき、イザークは助手席に滑り込んだ。
「運転する?」
 自分のIDを入力しながら、からかうようにディアッカが言うと、イザークは大きく息をついてシートを倒しながら答えた。
「冗談じゃない。宇宙港からここまで飛ばしてきただけで十分だ」
 するとその内容にディアッカは目を細めた。宇宙港につながるセンターシャフトから、この軍本部まではどんなに急いでも30分以上はかかる。疲れてるだろうに、飛ばしてきた、だなんてありがたいやら、かわいいやら・・・。
「誰かに運転させればいいだろ。仮にもお前、隊長なんだし」
「仮にもとはなんだ! 第一、他人の運転は耐えられん」
 助手席で偉そうにしているのが似合う彼だが、意外にも自分以外の人間が運転する車には乗りたがらない。たとえエレカの運転であっても、他人に命を預けるということに彼は抵抗を感じているようだった。
 そう言いながら、ディアッカといるときは自分で運転なんかしようともしないのだ。それはまぁ他人じゃないからか、と一人都合よく考えてエンジンのスイッチを入れるとハンドルをきり、緩やかに車は走り出した。





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