Lots of kiss



「17・・・」
 シーツの間、抱きしめてキスをしたらイザークがポツリとつぶやいた。
「え、何が?」
 唐突な数字に全く意味がわからないオレは聞き返す。
「17回目だって言ったんだ」
 そっけなくイザークは言うけれど、その意味するところが全くわからない。
「だから何が?」
 すると自分が言ったことが理解されないことにふてくされたように、イザークは顔を背けた。
「別に、たいしたことじゃないからもういい」
 まったく。
イザークはわかりやすく言おうとしないくせに、それを理解しないとすぐに機嫌を損ねてしまうのだから、手がかかるったら、ホントにお姫様みたいだぜ。
「そんなこというなよ。なーにが17回目なんだってば? オレはイザークの言うこと聞きたいって言ってるんだぜ?」
 顔を覗き込みながらその唇にキスを落とす。そうすればイザークの機嫌はよくなるってわかってるから。
 するとイザークはまたぽつりと言った。
「18・・・」
 キスをしたらカウントが増えた? ってことはそれって・・・。
「イザーク、キス数えてんの?」
 上から眺めながら言うと、ちらりと視線を戻してイザークが口を開く。
「たまたまだ。さっき時計を見たらちょうど日付が変わったところだったから、それからなんとなく数えただけだ」
 つまらないことを言ったような顔をして背中を向けてしまう。イザークがそんなことするのが意外だったけど、なんかかわいいじゃん、と思ってオレの顔がにやける。
 まだ時計は0時半過ぎ。
「たった30分で18回もキスしてたんだな」
「しすぎだ」
 そんなイザークを後ろから抱きしめてオレは耳元でささやく。
「イザークってキス好きでしょ?」
「そんなことない」
 即答するあたりがイザークらしい。でもそれって図星を指されたときの答え方なんだってオレは知ってるけど。
 だってイザークはキスをすると機嫌がよくなるんだから。そして甘えたような顔をしてそれに身を任せるイザークは、実はとっても色っぽいとオレは思ってる。
「ふうん・・・」
「もう寝るぞ」
 言ってシーツを手繰り寄せるイザークをオレは遮って抱きしめる。
「オレも数えたことあるよ、キス」
「・・・そうか」
 下から見上げる青い瞳は、どこかほっとしているようにも見える。きっと自分が馬鹿なことしたとでも思っていたんだろう。
「ああ。でも途中で盛り上がっちゃってわかんなくなったけど」
「ふっ、お前らしい」
 言ってあきれたように笑う顔がすごくイザークらしくて、好きだなと思ってまたキスをした。イザークもまたキスをされるままに受け入れている。
「19」
 ただし、しっかりカウントはしながら。
「ねぇ、いっそ一日で100回とか目指しちゃう?」
 思いついたオレが言うとイザークは突拍子もないことを言い出したと、あきれ顔で興味のなさそうな顔をしている。
「このペースなら、一日で100回なんて楽勝だろう」
 イザークの言葉にオレはまねをしながら笑った。
「休日ならね。でも明日は休みじゃないだろ?」
 その意味を理解したイザークは複雑な顔をした。
「執務中にまでするのは許さんからな」
「じゃぁ、挑戦するのやめる?」
 まじめな顔でイザークは返事に窮している。負けず嫌いなイザークは、こんな遊びですら挑戦を取り消すというのは、嫌なのだろう。かといって休日ではないのに100回という数字は簡単じゃないと気がついてしまって、どうしたものかと考えているようだった。
「どうする? 難しいほど挑戦しがいがあると思うけど?」
 プライドの高いイザークを操縦するには、その辺をくすぐってやれば簡単なのだ。
「・・・人前では絶対するなよ」
 睨むように見上げるイザークが出した答えは、何とか目標が達成できそうで、なおかつ絶対のルールは譲らないギリギリの妥協点だった。
「オーケイっ」
 軽くウインクをしながら、オレは顔をイザークに近づける。
「じゃ、これが20ね」
 20回目は深く唇を重ねて、熱く舌を絡めあう。歯列をなぞりながら、口腔の奥に忍び入るとイザークの口からは淡い吐息が漏れた。
「ぅんっ・・・」
 イザークの両手がオレを軽く押しのける。
「・・・ばかっ! これじゃまた回数がわからなくなるだろっ」
「んー、でもイザークが誘うような顔してるから」
「そんな顔してるわけない!」
 軽く握った拳をオレの額に押し付けながら、ついでに足で蹴飛ばしながら抗議する。
「あー、はいはい、スイマセン」
 謝りながら頬にチュッとキスをする。
「あ、カウントするのは口同士だけだよね?」
「知らん。お前が決めろ」
「じゃ、マウストゥーマウスだけってことで。とりあえず、寝る前にカウント稼いでおく?」
「ん・・・」
 頷くとイザークは目を閉じてねだるように顎を上げた。
 その唇に近づきながら、オレは100回なんて楽勝だな、と思った。
それと同時に人前じゃなければどこでキスしてみようかって楽しみができたことを 密かに喜びながら。
「21・・・」
 イザークが数える。
「じゃ、22・・・23・・・」
 オレがそれを引き継いで、数える合間にキスを重ねる。そのたびにイザークは幸せそうな顔をして腕の中にいる。
「イザーク?」
「ん?」
しばらくして笑いながらオレは言う。
「目標、200回に変更する? もうすぐ50回だよ」
「そのテには乗らないぞ!」
 口調とは裏腹に楽しそうな顔をしながら、イザークはオレの唇を奪う。
「変更したからって昼間、たくさんしようって言ったってダメだからな!」
「そんなこと考えてもないのに・・・」
 苦笑しながら、ペロリと舌を出す。さすがにイザークはそこまでだまされてはくれなかったか。
「それじゃ、ま、今日のところは目標100回ってことで・・・これで50ね」
 柔らかく唇に触れながら、ぎゅっとイザークを抱きしめた。
「楽勝だな」
 言って鼻で笑うイザークの笑顔がいつもよりずっと甘くて、オレはまたもう1つカウントを重ねた。


 
 

END






2005/5/7





あとがき




20000hit記念に書いてみました。
バカップル全開のHit記念のキスシリーズ第4弾。
そろそろネタ切れですが(笑)、何とかなってますでしょうか。
そういうわけで、記念シリーズはこれで最後かもしれません・・・。この先は未定。
ここまでやって来られたのも見に来てくれるみなさんのおかげです。
どうもありがとうございます。
→おまけ