「そうか。彼は今回の戦闘において大きな功績を挙げてね、『白』に昇進したそうだよ」
功績、確かにそうだろう。大きなダメージを受けたザフトにおいて、地球軍の新型特殊MSを破壊し、クルーゼ死後の
混乱した現場部隊をまとめたということらしかったから、当然の結果だ。
白い服を身にまとった彼はどんな表情をするのだろう。自分はそれを見ることはできないのだろうな。地球配属は
免れたとはいっても、限られたエリートの赤服とは違い、緑服では配属先の候補などいくらでもありすぎる。そんな
考えをめぐらせるディアッカにはかまわずに恩師は続けた。
「君の処分が軽かった理由にはもうひとつあってね。参考人として呼ばれたイザーク・ジュールが、君は非常に
優秀なパイロットであり君を失うことはザフトにとって大きな損失となる、今回は捕虜となった地球軍部隊が
アラスカ以降の混乱に巻き込まれ、戻るに戻れなかった事情は仕方がないことだ、と力説を繰り返して大変
だったそうだよ」
「イザークが?」
信じられないといった表情でディアッカは聞き返した。
「ああ。彼は今回の戦闘において生き残った唯一の英雄だからね。軍における立場も影響力も以前のものとは
だいぶ違う。その彼の発言を無視することもできないからね」
恩師の表情はどこかとても満足げだった。
「あのイザーク・ジュールがあそこまでするとは正直驚いたが」
恩師の驚きはもっともだった。優秀な彼はプライドも高く、常に自分のことを優先し、他人のことには関心が
ないものだと思われていた。
「その結果、君は一級降格と言う処分に決まったというわけだが、それも正解かもしれんな。彼は非常に優秀だが
隊を率いる部隊長としては若干精神的な面に不安がなくもない。その点、君は彼の性格をよく理解しているから
サポート役としてこれ以上の適任はほかにないだろう?」
どこか楽しげな表情で恩師はディアッカを覗き込んだ。
「部隊長、・・・サポート役って・・・」
「旧クルーゼ隊の解散の話は聞いただろう?」
「はい、さっき」
「そこで新しく編成される部隊がジュール隊、イザーク・ジュールが隊長の部隊だよ」
「ジュール隊・・・、イザークが隊長、ですか」
確かに今さっきイザークが白に昇進したという話は聞かされた。白であれば艦長、隊長クラスということにはなるが。
「君も知ってのとおり、赤はエースゆえにひとつの部隊に固定されることはまれだ。戦況によりフレキシブルに
所属が変わる。だが緑であれば副官という地位に着くには問題がない。そういうことだ」
恩師の話を信じられない思いで聞き返す。
「ですがオレの配属は後日の通知だと」
そこでわざとらしいくらいにしまったという表情をしてルーベンス・カミュは答えた。
「ジュール隊の正式な発足が2日後なんでね。発足していない部隊に配属というわけにはいかないだろう」
そこまで告げると恩師は扉に向かって歩き出した。数歩進んだところで状況の飲み込みに取り残されているディアッカ
を振り返った。
「話しついでだ。イザーク・ジュールには悪いが、これは言っておこう。今回の配属は彼の強い要請があって
最終的に決定した。自分の指揮下に置いて二度と今回のようなことはさせないからという一言で、地球への配属まで
でていた処分が覆った。彼はそんなことを君に知られるのは嫌がるだろうが・・・いい友をもったな」
言い終えるとルーベンスは部屋を出て行った。ディアッカはあわてて敬礼で見送る。
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