ジュール隊、副官・・・。
 頭の中で繰り返しながら、ディアッカは廊下に歩み出た。そこにユウの姿はもうなかった。処分の決まった人間に 担当士官は必要ないということなのだろう。
 一言結果を告げたかったな、と思いながらディアッカは来るときの倍の速度で自分の部屋へと向かった。すぐに  手続きをしてIDの更新をしよう。それがすめばイザーク部隊の所在も確認できるはずだ。
 そう考えながら、もどかしいほど長くに思える廊下の角を曲がりようやくのように部屋の前にたどり着いた。
 これでこの部屋も最後か、と思ってドアを開けると目の前の信じられない光景にディアッカは言葉を失った。
「遅いぞ、ディアッカ」
「な、イ、ザーク?」
 純白の軍服に身を包み、以前にもまして自信にあふれたブルー・アイ。部屋の窓から差し込む光にきらめく銀色の髪。
 あれほどに会いたいと思っていた存在。それが目の前にいた。
「査問会はとっくに終わったはずだ。何をしていた」
 相変わらずの口調。ソファの上で長い脚を組みなおしながら、こちらを睨むように見上げてくる。
「あ、いや。ルーベンス司令官と話してて」
 納得したのかしないのか、立ち上がるとディアッカに向き告げた。
「そんな調子で足を引っ張られては部隊の士気にかかわる」
 すでに隊長気取りでいる様子がやはりというかとても彼には似合っていた。なんだかそれがうれしい。
「ああ、そうだな」
「これからはお前は俺の部下だ。隊長の命令は絶対だからな」
「了解しました」
 おどけてディアッカは敬礼をしてみせる。すると彼はプイと横を向いてつぶやいた。
「もう俺の前から、いなくなるな。・・・これは命令だ」
 その言葉にディアッカは一瞬目を見開いて、それから細めた。不器用な彼の精一杯の意思表示。
「了解、デス」
 言われなくたって、もう二度とこんな思いはしたくない。
「隊長、お願いがあるんですけど」
 改まった口調でいうディアッカをイザークは振り返って見返した。
「ちょっと許可してほしいことがあって」
「なんだ、一体」
 訝しむイザークにディアッカは笑いながら言う。
「いや、上官を抱きしめるには、許可を取る必要があるのかなと思って」
 一瞬クールな瞳に熱がともる。あわてて背中を向けながらぼそり、とイザークが告げた。
「許可は、必要だ。隊長のスキャンダルなどで部隊を動揺させるわけにはいかないからな」
 その言い方にいとおしさを抑えきれなくなってディアッカは背中から腕を回す。
「で、今日のところは?」
 細い肩ごと抱きしめる。
「・・・許可、する」
 うつむきがちな彼の髪に顔をうずめた。
 同じ香り。これまでも、そしてこれからも変わらない愛しい人の甘い香りにディアッカは瞳を閉じた。
「ごめん・・・ごめんな、イザーク」
 それに対する返事はない。

「もう二度と離れない。ずっとそばにいる、誓うよ」
 耳元で告げられる言葉に腕の中で振り返りながら、イザークはこたえる。
「当然だ。隊長命令は絶対だか・・・」
 言葉の続きは目の前で閉じられたアメジストの瞳に吸い込まれていった。重なるようにブルーアイも閉じていく。
 ゆるゆるとディアッカの背中に純白の軍服の袖が回された。
 甘い口付け。
 それは誓い。
 想いごと抱きしめる儀式。
 君を離さない、二度と。
 細い腕が渾身の力を込めて背中を抱く。そのぬくもりを感じながらディアッカは思い返していた。
 これはきっと運命なんだ、と。自分は間違えようもなくこの人の元へ還ってくるものと決まっているのだ。
 ただ、神様というやつは少しだけ刺激というのを振り掛けたかったのかもしれない。不器用なこの人に、 自分への想いを改めて気づかせるために。
 オレは間違ってなかった。
 生きていたからこのぬくもりを抱くことができたんだから。
 自分を抱く力以上に強く、細い身体を抱きしめながら、ディアッカは銀の髪に指を絡めてその耳元でつぶやいた。
「愛してる、イザーク」
「・・・そんなことは、知っている」
 自信満々の返事に幸せを感じながらディアッカはもう一度その唇に誓いの封印を施した。





 END  2004/11/24








あとがき

つたない文章ですが、読んでくださってありがとうございます。
とあるチャットで盛り上がった勢いで突然書きたくなったのがこの話です。

…ああ、書いてしまったー。勢いって怖い。なかなかイザが出てこないし。出てきたとたん、進まなくなるし、で大変でした。
理屈っぽい性格の私にはシンプルで短い文章というのはどうやら不可能らしい。
イザークが出てくるまでの長さは産みの苦しみってやつですかね。
でもなんとか書き終えてとりあえずラブラブにまとまったのでうれしい。
さて、問題はHP作り。こればっかりは妄想ではつくれないからなー。

…というわけで、突貫工事で作ったのがこのページです。(汗