「ディアッカ・エルスマン、出頭しました」
敬礼とともに全体を一瞥する。
『ここがオレの絞首台になるのか』
正面に並ぶ査問委員の中から声がかかる。
「中央の席へ」
促されるままに、査問委員たちと対面する形でひとつだけ置かれているイスに座った。
今回は何も聞かれることはないはずだった。告げられる結論を待つだけの身。しかしそれは、ディアッカにとっては、
彼に会えなくなるということが不安から確定に変わると言う点においては死刑執行を待つ囚人のような気分だった。
「ディアッカ・エルスマンへの処分を言い渡す・・・」
代表委員が手元の書類に目を落としながら続けた。
「1ヶ月の謹慎、および1級の降格とし、緑服(グリーンクラス)MSパイロットとする」
「え・・・・?」
告げられた内容にディアッカは一瞬耳を疑った。
「なお、配属先は別途発表することとする。以上だ。・・・何か質問は?」
言い終えた代表委員は和らいだトーンでディアッカに問うた。
「いえ・・・。了解しました」
最敬礼するディアッカを認めると委員の一人が査問会の終了を告げた。
席を立つ査問委員の中、一人がディアッカに近づいてきた。
「今回はいろいろ大変だったね」
「ルーベンス・カミュ教官!いえ司令官」
それは士官学校の担当教官だった。経験豊富、実直な人柄で、優秀だが性格に問題のある彼とともに何度となく
世話になった恩師だ。自分たちの配属と同時に司令官として異動になったと聞いていた。
「君の場合は事情が事情だったから、なかなか紛糾したようでね」
緩やかな微笑をたたえながら、恩師は続ける。
「私まで査問委員に名を連ねるように要請されたよ、先週のことだが」
「そうだったんですか」
ディアッカは納得した。10日前の尋問のときには彼の顔はなかったから、ここにいることに驚いたのだがその
説明で腑に落ちた。戦歴の浅いディアッカを判断するには士官学校時代にまで遡るということにでもなったのだろう。
「ひとつ伺ってもよろしいですか」
姿勢を正してディアッカは口にする。
「一級の降格というのは、なぜですか。利敵行為ならもっと厳しい結論になるかと思ってました、オレは」
裁かれる立場としては言うべきではない内容ではあったが、恩師の表情はさらに柔らかいものになった。
「本来であるならな。ただ、今回はザフト自体もいろいろとあるし、擁護の声も多くてね」
そんなものなのだろうか、とディアッカが考えたときだった。
「そういえば」、と思い出したように恩師が言った。
「イザーク・ジュールには会ったかね?」
出てきた名前にディアッカは一瞬緊張をする。努めて平静を装いながら、「いえ」と短く答えた。
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