Holding



 収監されている部屋の窓から見える人工の空は地球でみたそれよりも、どこかくすんでいるように思えた。
 地球の空はもっと青く、だからあのとき、彼の紺碧の瞳を思い出したのかもしれなかった。
「オレは間違っていたのか・・・」
 ベッドに仰向けになりながら、低く彼はつぶやいた。
 収監といっても、彼には軍本部の一角にある、普段は使われていない官舎フロアーの一部屋が与えられている。
 単身者向けのワンルームの作りで、ベッドやソファ、簡単なカウンターキッチンが備えられている。それは、赤という上級士官である彼の立場のせいもあったかもしれないが、それ以上にプラントの現在の混乱に原因があるようだった。
 ユニウスセブン停戦条約から1ヶ月、彼、ディアッカ・エルスマンに対する査問会の尋問は3度の回数を重ねていた。裁判ではなく査問というのも異例ではあったが、尋問が3回も行われるというのも過去に例がなかった。なか なか結論が出せない状況ということらしい。
アラスカで地球軍の捕虜となった記録が残っていたために、ディアッカは停戦条約の締結と同時に行われた捕虜交換でプラントに戻っていた。ほかの大勢の捕虜のほとんどは一定の手続きの後に帰宅を許されていたが、彼だけは収監されていた。
 表向きの記録が残っているとはいっても、ヤキンドゥーエの戦闘において、ディアッカの搭乗するバスターは多くのザフト兵に目撃されていた。そして、もちろんデュエルの戦闘データにも彼との通信記録は残っていたのだ。さすがに、それだけの資料があってはいくらザフト上層部が混乱している状況とはいえ、不問というわけにはいかないらしかった。
 その結果としての収監である。収監にあたり彼に与えられたIDはある程度の行動範囲の自由は与えられているが、本部から出ることはできず、また外部との連絡には一切の自由がなかった。
 自由が与えられた理由としては、彼が正規の地球軍とともに行動していたわけではなく、ラクス・クライン率いる一団と一緒だったことから、シーゲル・クラインの遺志を引き継ぐ新政府側の人間の力が働いたということがある。
 そして通信の自由が与えられない理由は、彼が問われている罪状が利敵行為とされているからだった。
「地球に降ろされるのか・・・」
 そのつぶやきに応える声はない。 
 ベッドの上で反転しながら、視界をさえぎるように額に腕を置いた。罪状から考えれば予想される結論は明るいものではなかった。ザフトにおいてエースパイロットは宇宙にあってこそである。地球の部隊に配属になるということはすなわちエリートコースからの離脱を意味した。そして一度地球に降りてしまえば、宇宙に戻ることも年に数回という程度だろう。ディアッカは赤服をまとってはいたが、エリートでありたいと自ら思ったことはない。それはただ紺碧の瞳の彼がその道を行くから共に歩んできた結果にすぎない。だが、査問の結果によっては二度と会うことすらできなくなるのかもしれないのだ。
「・・・オレは間違っていたのか?・・・会いたいよ、イザーク・・・」


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