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  アークエンジェルに追い詰められ絶対絶命となったオレは、ミゲルのことを思い出した。彼が二度と戻らない事実を前に、怒りに震えた銀髪の少年はひどくショックを受けていた。
『もし、自分がここで死んだら・・・』、思った瞬間、コクピットのモニター越しに地球の空が見えた。
青・・・。
『二度と会えなくなる、ここで死んだら。・・・あの瞳に。オレの紺碧の瞳に・・・』
迷いはなかった。次の瞬間にはハッチを開いて投降していた。
「オレはここでは死なない」
 捕虜になったことを知ったら、きっと彼はふざけるな、と言うのかもしれない。プライドの高い彼は、投降などするくらいなら相打ちに持ち込んでやるくらいは言うのだろう。その顔が容易に想像できて緊張が緩みそうになる。向けられる銃口に光が反射するのを見て、改めて手を高く上げなおした。
「オレは死なない。死んでお前に会えなくなるくらいなら、捕虜にだろうと奴隷にだろうとなってやるさ」
 生きてさえいれば、もう一度会えるはずだから。


 長く辛い戦闘を一時的とはいえ停戦にこぎつけさせることに貢献することはできた。
 そしてオレは生き残ってこのプラントに戻ってくることもできた。
 だが。
 1ヶ月に及ぶ収監生活において、面会に訪れたのは家族だけだった。それも母親と妹だけが形だけの面会にやってきた。オレのとった行動は父親の立場を考えれば褒められることではなかったから当然なのかもしれないが。
それ以外にほかの面会者はなかった。
「まぁ、裏切り者って思われてたら終わりだしな」
 通信の自由がない以上、こちらから連絡のとりようはない。あったとしても拒否されたかもしれないが。生きて帰っても会えないという状況は彼の性格を考えればいくらでもありえたが、あの時は生きてさえいれば会えるのだと信じていたのだ。いやそう信じたかったのかもしれない。


「このまま会えないのか・・・」
 自分の思考が悲観的になっていくのを感じて、無理やりに切り替えをはかる。
「ていうか、いい加減結論だしてくれよな。・・・コーヒーでも飲むか」
 ベッドから勢いをつけて飛び起きながら、カウンターに向かおうとしたときだった。
 デスクの上のモニターフォンから音声が流れた。
「ディアッカ・エルスマン。在室か?」
「はい、何か?」
 モニターを覗き込みながら返事をする。
「本日1400に査問会の処分言い渡しがある。1355に担当士官とともに出頭のこと。以上、質問は?」
 一方的に告げられた内容に戸惑いながらもオレは復唱した。
「本日1400に査問会の処分言い渡し、1355に出頭。以上了解しました」
 言い終えると同じように一方的に通信は切られた。
「いよいよか」
 通信の切られたモニターを眺めながら、オレは深くため息をついた。
 その後コーヒーを入れたが、その味をほとんど感じることはできなかった。









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