ピリピリピリ。
雑誌から目を上げるとディアッカは最低ボリュームで鳴るアラームを止めた。そして立ち上がると奥の寝室のドアを開ける。
ベッドの傍らに立つと、輸液の残量を確認し、腕をとるようにしゃがみこんだ。イザークは寝息を立てている。
ベッドサイドからガーゼを用意すると、点滴の針を手にする。血液が逆流しないよう慎重にそれを抜きながら、止血用ガーゼを手早くサージカルテープで止めた。
「ぅん・・・?」
寝ていたイザークから声が上がる。
「起こしちゃった?」
上から覗き込みながらディアッカは言う。手元では点滴の後始末をしながら、けれども心配そうにイザークから視線は離さない。
「点滴終わったから抜いたとこ。気分悪くない?」
もともと発熱して寝込んでいる人間に向かって気分が悪くないか、と聞くのはどうなのだろうと普段のイザークなら言うところだろうが、今の状況ではそれも無理だった。軽く首を振って否定する姿は本当に苦しそうだった。
代わってやれたらな、とディアッカは思う。
イザークは疲労から体調を崩したのだ。もともと多少のことでは根を上げないのだが、それが祟って無理が重なり寝込むほどになってしまった、というわけだ。
こんなになるまで気づいてやれなかったことにディアッカはひどく後悔したが、イザークのカモフラージュぶりは段々とうまくなってきていて、なかなか気づけなかった。聞けば前日から熱があったのだという。そして今朝から高い熱が続いていて一向に下がる気配はない。それで点滴を打つことになったのだが。
「お前に出来ないことは・・・」
かすれた声で言った言葉は最後まで言うことが出来なかったが、ディアッカには理解できた。
お前に出来ないことはないのか、と。
この点滴を打ったのはディアッカだった。あまりに熱が下がらないので医務室に行ったところ、点滴を勧められた。だが医務室で一人、点滴を打たれているのは嫌だ、とイザークがわがままを言ったのだ。もっとも、表立っては隊長がこんなところで寝ていられるか、と嘯いたわけだが、ディアッカには本心はお見通しだった。
軍医はあきれていたが、イザークの言い出したら聞かないという気性は知られていたし、何よりその軍医がイザークのファンであることをディアッカは知っていたから、自室で点滴を打つようにしてもらったのだ。それでも、イザークは他人が部屋に入るのを嫌がるとわかっていたから、ディアッカはさらに手を回して自分が点滴を打つから、と軍医を説得したわけだった。
困惑した軍医は、けれどディアッカがアカデミー時代に「看護衛生」の授業でトップクラスの成績だったと知るとしぶしぶながら承諾したのだ。
「できないことなんていくらでもあるけどね」
そういってディアッカは笑う。
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