視界いっぱいに広がるのは、満開の春の景色と愛する人の顔。淡いピンクの桜を背にして照れたように覗き込むイザークの顔はまんざらでもなくて、ディアッカはその手を伸ばして銀色に光る絹糸の髪ごと引き寄せる。サラサラと指をすべる髪の手触りに酔いながら、強請るようにして唇を重ねる。桜色の景色の中でするキスはほのかに甘い味がした。
「願わくは・・・」
 ぽつりと言ったディアッカの言葉にイザークは聞き耳を立てる。
「ん? 何だ?」
「西行法師の歌だよ。下からイザークを見てたら思い出した」
「和歌か?」
「そう。『願わくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ』っていうんだけどね」
 桜の時期に花の下で死にたいと歌った西行は、ほんとうにその時期に永遠の眠りについたのだという。自分の望んだそのままに。
「そんな風に自分の死に方について考えるなんてどうかな、って思ってたんだけどさ」
 軍人として死ぬことを考えないことはなかった。ただそれは死にたくない、ということだけで、死ぬならこうありたいなんて思ったことはなかったのだが、ふとこの歌を思い出して西行法師の気持ちがわかった気がしたのだ。
「オレがもし死ぬとしたら、イザークの近くがいいな、って思ったんだ」
 ディアッカの言葉にイザークは形の良い眉を不機嫌に顰める。
「死ぬことなんて考えるな」
 情けない、と叱責するイザークの言葉に曖昧に頷きながら、イザークは本当に綺麗だなと、舞い落ちる花びらに包まれる恋人を見上げながら思っていた。
 もし、死ぬときがきたら、許されるならイザークの近くで、イザークを見ながら逝きたい。
 こんなに綺麗な、こんなにも愛してるイザークを最期に見られたらきっと、幸せな気持ちで眠りに就くことができると思うから。
「イザーク・・・」
「なんだ?」
 まだ不機嫌な恋人に苦笑しながらディアッカは告げる。
「愛してるよ」
 褐色の指が白皙の頬に伸びて、イザークの表情は柔らかくなる。
「知ってる。それより・・・」
 忘れないように、とイザークはディアッカの指を絡め取って脇へ追いやりながら、その唇を耳元に寄せてささやいた。
「誕生日おめでとう・・・。死ぬなんて縁起でもないこと言うな。お前は俺と一緒にずっとみんなの分まで生きていくんだからな」
 優しい、普段のイザークには不似合いなほど甘い言葉にディアッカは頷く。
「わかってるよ、ちゃんとそのつもりだから」
 最期のときはきっとほんの一瞬だから。
 それまでの長い長い時間をこれからもずっときみと一緒に。
 生きていけることに幸せを感じながら。
 満開の桜とイザークを独り占めできるなんて、贅沢なプレゼントだなぁと笑いながら。

「そーいえばさ、帰ったら徹夜かな?」
 思い出したようにディアッカは言うとイザークが仕方がないさと言う。
「二人で徹夜するんだ、文句言うな」
 昼も夜もいつも一緒にいられるなんて、本当に独り占めだな、とディアッカが言ってイザークがまったくだ、と頷いて笑い声を上げる。

 春の日の穏やかな日差しにまぶしそうにしながら、掌を重ねた二人は、しばしのまどろみの時に身をゆだねた------。




Happy Birthday DEARKA!!


2006/3/29






あとがき。

西行の歌とこの壁紙が使いたくて、この話・・・

ディアッカの誕生日に東京は桜が満開ですv
おめでとうディアッカ☆
君に出会えたことの幸せに感謝して。
ずっと二人で幸せにね

  


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