ベッドルームのドアを開けると、寝巻きを着てはいたがそれでもベッドから出られずにいるイザークがいた。
 ヘッドパネルのライトをつけてうつぶせになり、枕の上に腕を組んでその上に頬を乗せている姿は、ディアッカの理性が簡単に揺れるほど艶っぽかった。
「悪い、オレが起こした?」
 言いながらグラスをサイドボードにおいてベッドにもぐりこむ。
 その隣に上半身を起こしながら、イザークは首を振る。
「なんだか、寒くないか?」
 それで起きたんだ、とその青い眼は言う。
 ディアッカは軽く笑いながらその肩を抱き寄せる。すでにひんやりとした体を温めるようにしてディアッカはさっき得た情報を伝える。
「なんかさ、気象システムのトラブルらしいよ。窓の外、見てみなよ」
 言われたイザークはリモコンでブラインドを上げた。
 そして一瞬言葉を失う。
「なっ……雪?」
 やっぱり驚くよな、ふつー。と、先ほどの自分のことは棚に上げてディアッカはその様子を楽しげに眺めている。
「どういうことだ、これは」
 イザークはディアッカの腕を払い、強い口調で問い詰める。
「プラントの気象管理のメインシステムがダメなんだよ。復旧は昼だってさ」
 言うと納得しきれないながらも、イザークはつぶやいた。
「これでは外出は無理だな」
 今の時刻は朝の4時過ぎ。
 このまま昼間まで降り続いたら、経験はなくとも知識のみに基づいてさえ、状況の予測は簡単についた。
「でもさ」
 イザークの不機嫌ぶりとは裏腹に、明るい調子でディアッカは言う。その言葉にイザークは隣の金髪を眺める。
「たまにはこーいうのもいいじゃん。いつも決まった天気なんて、ある意味退屈だし」
 トラブルでさえ楽しんでしまうディアッカの性格らしい発言に、イザークは軽い吐息とともにうなづいた。
「まぁな」
 おかげで少し気分が浮上したのを感じて、イザークは、こういうときはコイツにはかなわないなと表情を崩す。
 それに気づいていないらしいディアッカはサイドボードにおいたグラスに手を伸ばすとイザークに聞いた。
「飲む? あったまるぜ」
 言いながら自分は一口飲んでいる。
「なんだ?」
 尋ねるイザークへの返事は、それを含んだディアッカのキスによってもたらされる。
 度数の高い液体がイザークの口へ流れ込む。
 予想だにしなかったイザークは軽くむせながらディアッカを睨んだ。
「っ、おまえな…」
「ごめん、ごめん」
 笑いながら、二口目を口にするとイザークの顎を上に向ける。今度はむせることなく、それを拒まずに受け入れた。
 熱い液体が伝い落ち、ごくりと飲み下すと、滑らかな舌が絡み付いてくる。
 かっとなった喉の刺激以上に、それはイザークの体温をあげていく。
「ん…っ」
 細くもれる声にディアッカは細い腰を抱き寄せるとさらに熱っぽく舌を躍らせる。不器用にそれに答えるイザークはディアッカの柔らかい舌に翻弄され、その口元は徐々にゆるくほどけていく。
 すると突然イザークが体を押しやって離し、顔を背けた。
「…くしゅん」
 それをみたディアッカは慌てて寝具を引き寄せてイザークにかけてやる。
「大丈夫か?」
 言って同時に思い出す。大丈夫じゃない、なんて言うわけないんだ、ということを。
「ああ」
 そう答えるものの、イザークは布団を肩まで引き上げている。
「仕方ないな」
 ディアッカは言うとグラスを置いた。
「まぁな、昼までの辛抱だ」
 ディアッカの言葉の意味を取り違えているイザークは、いきなり抱きしめられるとそのまま押し倒された。
「何するんだ」
 抗議はするが両腕ごとがっしりと抱き込まれていてはそれもかなわない。向き合うような姿勢で二人はすっぽりと布団をかぶる。
するとディアッカはその髪にキスをしながら言った。
「仕方ないからオレがあっためてやるよ」
「仕方ないじゃないだろうが。だいたい室温を操作すればすむ話だ」
 抵抗もできず包まれた腕の中で、それでも口調だけはいつもどおりに睨み上げてイザークはなんとか逃れようと言う。けれどそれすら愛しそうにディアッカはさらに額にキスをしながら言った。
「残念ながら、それも調子悪いみたいなんだ。システムが連動してるからじゃないかと思うけどさ」
 反論の芽を摘まれてイザークは押し黙る。おとなしくなったイザークに満足しながら、その唇を奪おうとしたディアッカの勢いをそぐようなタイミングで、イザークは顔を横に背けるとまたくしゃみを二つ繰り返した。







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