「くしゅっ…っしゅん…っ」
「あぁ、もうっ」
 少し悔しそうにいいながら、ディアッカは手を伸ばしてティッシュをイザークに取ってやる。
「すまない」
 言いながら、さらに1つクシュン、とやると、イザークはちらり、と恋人の顔を見た。
 その視線をしっかりと受け止めたディアッカはぐしゃぐしゃと自分の髪をかきむしると思い切り悔しがって言った。
「…だぁっ。もうっ!…わかったよ。お前が風邪引くわけにはいかないもんな。おとなしくするよっ」
 その答えにほっとしたイザークは、けれど、次の瞬間にまたディアッカに抱きしめられていた。
「こらっ、ディアッカ!」
 言ったそばから何だこれは、と文句をいうと、思い切り甘い笑みが返された。
「何もしないってば。でもお前が寒いといけないからあっためてやるよ」
「……」
 瞳だけで疑いを投げかけられて、苦笑しながらディアッカは続ける。
「ホントだって。信用してくれよ。オレだって一応副官なんだから、隊長の立場だってわかるしさ。それにせっかくの休暇が風邪で終わったらつまんいだろ?」
 その答えに、普段が普段だからな、トゲをさしながらイザークは抵抗する力を抜いた。そしてたくましい恋人の腕に身をゆだねる。
「たまには…」
 ふいにディアッカが口にした。
「ん?」
「たまにはこういうのもいいかもな」
 意味が解らずに腕の中でイザークは聞き返す。
「何がだ?」
 極上、とイザークには思えるくらいの甘い顔でディアッカは答える。
「ただハグしてるっていうのもさ」
 トクトクというディアッカの鼓動を聞きながら、イザークはそういえばこんなことはほとんどなかったのだと気づく。
 たいていはその後があるものだから。
「お前が言うな」
 ぴしゃりと言う。
「はいはい」
 それに続く軽いキス。
「それに」
 言うとイザークは 抱え込まれた両腕を広げてその拘束を解いた。
 それに気をとられたディアッカに、今度はイザークが腕を伸ばす。まわされる細い腕。それがしっかりとディアッカの体を抱きしめる。
「こういうのはお互いがするものだろう」
 その胸に頬を寄せながら、イザークは照れて顔を背けた。
 一瞬驚いたディアッカは、ゆるり、とその相好をくずすと、その腕ごともう一度イザークをぎゅっと抱きしめた。
 耳元でそっとささやく。
「お前を好きでよかった」
「何だ、それは」
 言う口元に甘く唇が降り注ぐ。蒼と紫の瞳が重なる。やがてそれはゆっくりと閉じられたが、すぐにぎこちなくディアッカから唇が離される。一瞬目を開くと、目の前の紫の瞳に困ったような色が浮かんでいて、イザークは楽しそうにもう一度、今度は自分から唇を重ねた。
 何度も繰り返される短いキス。
 やがてそれは、こらえきれなくなったイザークのくすくすという笑い声で幕引きとなった。
 そして銀糸の髪をはらり、とこぼすと恋人の胸にそっとキスをして目を閉じる。
 静かな部屋で、トクントクンと少しだけ早いディアッカの鼓動が心地よく響いてくる。
 その髪を骨ばった長い指がやさしく梳きほどいている。
「…ディア……」
 とろん、とした声がしてディアッカは了解したように返事をする。
「ん、おやすみ」
 そしてイザークは愛する人のぬくもりに包まれて、ふたたび深いまどろみへと落ちていった。

 窓の外の雪は濃さをまして、降り積もっていく。
 しんしんと冷たい音すら吸い消して、聞こえるのはお互いの鼓動だけ。
 季節外れの雪。
 それはきっと特別な恋人たちへの神様からの贈り物----。





END


2005/1/17




あとがき

あーん。くしゃみイザークに萌えっ!
…のっけからバカですみません。
前作で鬼畜を書いた自分をリセットするために書きました。
雪をテーマにしたはずなのに、家の中だけじゃん、と
書き終えてから自分で突っ込みをいれてました。
作品ごとにいろいろと自分なりのテーマを決めて書いてはいるのですが、
達成できたためしがありません(泣
しかもディアッカ生殺し(笑)だし。