as a warning


「は?今なんて言った?」
 ディアッカは思い切りまぬけな顔をして聞き返した。
「だから、お前とキスするんだ」
 イザークは仏頂面そのものの顔で言う。
「…誰が?」
 再度聞き返されたことでイザークの顔には不機嫌の色が濃くなる。
「俺が、だ」
 ルームメイトはサラサラの銀髪を優雅とはいえない素振りで乱しながら、忌々しげに吐き捨てると横を向いた。

 アカデミーの寮のラウンジと呼ばれる一角にディアッカは呼び出された。ミゲルたちのところに行くと言っていたからまた勝負でも挑んでるんだろうと近づかないようにしていたら、イザーク本人からラウンジに来いといわれたのだ。
 毎度毎度、勝負を挑まれては半分近く負けているというのに。懲りもせずまたイザークは罰ゲームをする羽目になったらしい。
「で、今回は何に負けたわけ?」
 肩を竦めてディアッカが聞くとぼそりと返ってきたのは「ポーカー」という答え。それでディアッカは納得する。ポーカーなんてミゲルのオハコだ。おそらくイカサマでもされて餌食になったんだろう。ミゲルみたいな奴からしたら、イザークなんて、絶好のカモなんだろうから。
 案の定後ろのソファで様子を伺っている集団の中でミゲルはニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてこちらを見ていた。
 それにしたって。
 負けた奴が罰ゲームを受けるのは当然だし、それに反対する気なんてディアッカにはさらさらない。だけど負けた本人以外が被害を受けるというのはどうにも納得いかない。しかもキスするなんて冗談でも見せ物になんかしたくないものだ。
 ディアッカとイザークが恋人であることは一応秘密にしている。一応というのは、勘のいいニコルとミゲルには薄々気付かれているらしいと最近思うからだ。だから最近は気付かれないように特に気を付けていたというのに。なんだって罰ゲームなんて…と思わずにはいられない。イザークは直情的で裏表がない。そこがいいところだとは思うのだが、見方を変えれば人の裏も読めないということだ。
 それは少しひねた性格の奴からしたら、暇つぶしにはもってこいということになる。イザークは自分に自信があるからたとえそんな裏があるとしても、勝負を挑まれたなら逃げることなんてするわけなかった。もっともイザークがそんなふうに自分自身を扱われていると知っていたら、勝負以前に殴り合いになっているのだろうけれど。
「なんで、オレとキス、なわけ? 罰ゲームは勝負にかかわってない人間を巻き込むべきものじゃないと思うんですけどね」
 腕を組みなおしてイザークを見ると珍しく口ごもったまま視線をそらしてしまう。こんなまっとうに理由を聞かれたら答えないわけにはいかないが、できたら自分の口からは言いたくないという、そんな顔だった。



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