「決めたのはイザークだぜ」
 会話を盗み聞きしていたかのようなタイミングでソファの方からミゲルの声が届いた。もちろん、ここからじゃ声なんて聞こえるはずはないのだが、大方、会話の予想はついているのだろう。何しろ毎度の罰ゲームを仕組んでは楽しんでいる張本人なのだから。
「キスするってのをイザークが?」
 足を投げ出してとっととやれよ、とばかりにこちらを見ているミゲルにディアッカは聞き返す。
「いーや。キスする相手をさ」
 そこまで言って体を起こすと意味深にディアッカを見ながら続ける。
「罰ゲームの内容は、『負けたやつが全員の前で誰かとキスする』ってことでさ。せめてもの情けにキスの相手は本人が決めていいってことにしたわけ」
 オレって優しいからさぁーと言わんばかりのすまし顔にディアッカは内心で舌打ちする。何が情けだ。イザークがキスする相手なんて適当に選べるわけないとわかっているのだ、ミゲルは。だからこそ、ディアッカとの仲を怪しんでいるイザークに自分で相手を選ばせるためにこれは仕組まれたのだろう。
 ミゲルの言葉を受けて、イザークを見てみればもはや何もいえなくなって仏頂面になっていた。負けた自分への情けなさとディアッカを巻き込んだことへのばつの悪さと。
「あっそ。じゃぁオレはイザークに選ばれたってわけね」
 あくまでもお互いに知らん顔をして白々しい会話を続ける。もっともこの白々しさに気づいているのは会話をしている本人同士とおそらくニコルだけだ。アスランは思いつかないだろうし、ラスティなんて問題外だ。
 ディアッカはどうするものかと考えるが、選択肢なんて一つしかありえない。ここで断れば余計に怪しいと邪推の理由を与えてやるだけなのだから。
 ならば、と考えてディアッカは確認のためにミゲルに聞いた。
「なら、オレとイザークがキスするならオレからしたっていいんだよな?」
 予想外の言葉にミゲルは「そりゃまーな」と了解をする。
「イザークからのキスってなんか噛みつかれそうだから、慣れてるオレがしたほうが都合がよさそうだし」
 言ってイザークを見ると、不満と不安の混じった顔をしていた。いつも噛み付くのはお前の方だろうと言いたいけど言えない、それでいてどうするつもりなのかと問いたそうな表情だ。
「文句はなしだぜ。負けたイザークが悪いんだからな」
 そうささやくとディアッカはイザークの体を壁に押し付けた。一瞬、肩を掴んで抵抗しようとするイザークに「ここでやめたらチキン扱いだよ」とディアッカがその顎を持ち上げると、まるでギャラリーがいないかのようにいつもどおりにイザークの目蓋が伏せられる。
 あんまりイザークが抵抗しないのも怪しまれちゃうけどね・・・。内心でそんなことを考えながらディアッカは唇をイザークのそれに重ねた。



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