祈り短冊


「もう何度目だっけ」
 風呂上り、濡れたままの髪の毛を邪魔そうにかき上げながら、白地に紺色の帯という浴衣姿のディアッカが聞いた。
「さぁ、毎年のことで数えてないからな」
 やや伸びた髪を短い尻尾のように結い、パタパタとうちわで扇ぎながら、藍色の浴衣に薄灰の帯を締めたイザークが答える。
 エルスマン邸の離れで、こうして二人で夏を過ごすのはもうここ数年の恒例となっていた。
「そっか」
 ディアッカは短く言うと、縁側に座るイザークの隣に腰掛けた。庭先には飾り付けられた笹が立てられ、頭上では風鈴が涼しげな音を響かせている。
 二人のすぐ脇には、家の者が用意した酒が繊細な硝子の器に入れられてある。それを手に取るとディアッカは注いでイザークへと寄こした。そして自分の分も注ぐ。
「今年もこんな時間が取れるとはな」
 冷たく冷やされた酒を一口で飲み干すとイザークはそんなことを言った。
「ああ、そうだな」
 ディアッカもそれに頷く。
 二人はアカデミーに籍を置く軍属だった。すでに入学から5ヶ月近くが経ち、訓練はより実践的な内容になりつつある。そんな中で思わぬ休暇が与えられたのだ。休暇と言っても二日間だけで、それが開ければ宇宙での演習が繰り返されることになっている。次はいつ家に戻れるかもわからない状況で、二人が選んだ休暇のすごし方は、夏の恒例だった離れでの時間を過ごすことだったのだ。




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