イザークは人工ガラスの中に作られた偽物の空を見上げている。
「そういえば今日は7月7日か」
 ぼそり、とつぶやいたイザークの言葉にディアッカは視線の理由を理解した。
「あぁ、だから天の川なのか」
 偽物の空はプログラミングされた星空が映し出されていて、それは地球の東半球の空と同じだということだった。
「俺たちは、あの星と同じところに住んでいるというのに、それでも星を下から見上げたいのか?」
 現実的なイザークの物言いに苦笑しながら、ディアッカは酒をくいっと飲み干す。
「確かに、星と同じところには住んでるけどさ。このプラントを一歩出れば、同じように下から星を見上げるようなものだろ? それは地球だってプラントだって宇宙に浮かぶ星のひとつに過ぎないってところでは同じなんじゃないの?」
 ディアッカの説明に納得できないのか、イザークの眉は軽く顰められている。
「そんなものか?」
「そんなもんでしょ。結局コーディネーターなんていったって、地球に対する郷愁は押さえられないってことかもしれないけどな。イザークが民俗学を学ぶのと天文学者が地球からの宇宙を大事にするのなんてそう変わらないだろ」
 自分を引き合いに出されたイザークはしぶしぶといった表情でディアッカに酒のおかわりを要求する。それに笑いながら注いでやると、ディアッカはその細い腰を抱き寄せた。
「なぁ、イザーク」
 胡坐の中に座らせるようにしてイザークを背中から抱きしめてディアッカは言った。
「なんだ?」
「もしさ。もしこれから先、配属になってバラバラの部隊で戦うことになったとして、お互いに知らないところで死んだとしたらさ」
 突然言い出した内容にイザークは驚きを隠さなかった。毎日の訓練漬けの中でただがむしゃらにそれをこなしていい成績をとることだけを考えていたイザークだったから、そんな先の、そんな状況なんて考えたことなんてなかったのだ。
「宇宙のどこかで待ち合わせしようぜ」
「待ち合わせ?」
「そう、待ち合わせ。でさ、天の川に隔てられて年に一回しか会えないなんてのは嫌だから、ちゃんとポイント決めておかない?」
 言い出しのわりにはなんだか力の抜ける内容にイザークはおかしくなって笑った。




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