「去年の短冊・・・」
ふいにイザークが言って、ディアッカは慌てて聞き返した。
「何?」
「去年の短冊に書いたこと覚えてるか?」
毎年、二人は七夕のたびにこうして夜を過ごして、願い事なんてくだらないな、と言いながらもイザークと二人、短冊に願い事を書いてきた。
「えーとなんだっけ・・・」
必死に思い出そうとするディアッカに、イザークは楽しそうに笑う。
「お前の願い事はバカみたいに毎年同じだろうが」
言われたディアッカはああそうだ、と思いだして表情を崩す。
「そーでした。『イザークとずっと一緒にいられますように』だった」
毎年それしか書かないで、いつもイザークにそれ以外にないのかと言われているのだ。
「じゃぁイザークの願い事はなんだったわけ?」
昔は民俗学の博士号を最年少で取りたいだとか、地球の何とか遺跡に行きたいだとかだったと思うのだが、去年はどうしても見せたくないと言ってディアッカには教えてくれなかったのだ。
「昔書いた願い事は叶ったためしがなかったんだがな。去年の願い事は叶ったらしい」
意味ありげなイザークの言葉にディアッカはますますその内容が気になった。
「気になるだろ、教えてくれよ。なんて書いたわけ?」
くだらないと言いながら、その願いが叶うかどうか気にしているあたりがイザークらしいし、それが叶ったとなればどんな願いを書いたのだろうとディアッカは知りたくなる。
「来年もディアッカと七夕をすごせますように」
ぽつり、と言ったイザークの一言にディアッカは目を見開いて、それから柔らかく微笑んだ。
「イザーク・・・」
「俺はお前と違うからな。『ずっと』なんてことは書かなかった。来年、また一緒にいられたらそのときにまた来年のことを書けばいい、そう思ったから」
そうして、願いは無事叶って、目の前にディアッカがいる。それを思ってかディアッカを見るイザークの瞳は驚くほど穏やかで甘い。
その髪に手を伸ばして撫でながら、結い上げた髪のしたで艶やかに映る項に手を伸ばす。そしてそのまま引き寄せるとディアッカはそっと口付けをその唇に落とした。
「一年前にはアカデミーに入ることなんて思いもしなったしな。たいしたことないと思っていた願いが叶って嬉しいと思うとは自分でも考えもしなかった」
自分たちを取り巻く戦争の状況は一年前には予想もつかなかったほどに激化していて、それに志願した自分たちはいつ命を落とすかもしれない環境に身をおくことになった。だからこそ、なんでもなく当たり前だったことが、貴重だと感じられるのだ。
イザーク自身、一年前に書いた願いなんて書くことが思いつかなかったくらいの理由だったはずだ。だがこうして七夕にディアッカと二人で過ごせることがとても大事な時間へと変化して、願いが叶ったことへのありがたみのようなものすら感じていた。
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