「大人しくこれ着てくださいよ」
茶色の着ぐるみを持ってニコルはイザークに向かってなだめに掛かる。
「だったら貴様が着ろ!」
キッとイザークは青い瞳で睨んで言う。
「無理です。今年のサンタとトナカイはもう発表されてますから」
くじ引きで当たりを引いたニコルは本来なら他の寮生同様、部屋で待っていればいいのだが行きがかり上、準備を手伝っていた。
「早くしなよ、イザーク。せっかくの焼き立てクッキーが冷めちゃうじゃん」
すでに気ぐるみを着てツノのカチューシャをつけ、赤鼻のスポンジを着けた準備万端のラスティはぶーぶー文句を言っている。本当は真っ先に食べてしまいたいのだが、仕事が終わるまで自分たちの分はお預けにされてしまっているのだ。
「おい、まだなのか」
アスランがイザークの様子にあきれながら言うと、「黙れ!」とイザークは吼える。アスランは付け髭までしてすっかりサンタの格好をしている。
「似合いますね、アスラン」
ニコルは褒めて言うがアスランは複雑な顔だ。
「あぁ、ありがとう・・・」
「あきらめろよ、イザーク。とっとと終わらせた方がラクだって」
同じくサンタの格好をしているディアッカが言うとイザークはムッとしてディアッカを睨んだ。
「貴様らはまだマシだろう、人間だからな! 俺は動物だぞ、こんな赤いスポンジ着けられるか!」
イザークはスポンジの鼻を床に投げつけた。
すると控え室になっている部屋のドアが外から開いた。そこに姿を現したのはミゲル。
「あーあ、やっぱりな。こんなことだろうと思った」
床に転がったスポンジを拾い上げて金髪の少年は苦笑している。
「ミゲル!からかってる暇があるなら貴様がやれ!」
イザークの言葉にミゲルはふっと笑う。
「オレもやったよ。サンタだったけどな」
赤いスポンジの鼻をポーンと高く上に放って受け止めながらミゲルはイザークに向かう。
「イザーク、お前さ。お固くてまじめなのもいいけど、一度くらいはバカになってみることも必要だぜ。こんな戦況じゃ卒業前にいつオレらが借り出されたっておかしくないからな。戦場じゃバカやろうってもできないからな、貴重な経験だと思えよ」
ぽんぽん、とまるで子供をあやすようにイザークの頭を叩いた先輩にイザークは何もいえなかった。
淡々と繰り返す授業と訓練。そんな毎日でときどき自分たちが置かれている立場を忘れそうになる。卒業と同時に待っているのは命のやり取りをする戦場だということを。
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