「さ、早くやりましょう」
 ニコルに促されてイザークはしぶしぶ着ぐるみに手を通す。背中のファスナーをニコルに上げてもらって、イザークはツノを着けようとしたが、それはかなわなかった。着ぐるみの手がひづめの形になっていて指先が使えなかったのだ。
「ったく、こっち向けよイザーク」
 ルームメイトの言葉にイザークはそちらを向くと、褐色の指先が銀色の髪を押さえて器用にツノのカチューシャを着けてやる。
 ムッとしたままのイザークにミゲルは声をかけた。
「ほら、イザーク仕上げだ」
 呼ばれてそちらを向けばスポンジを手にした先輩が笑っている。
「・・・楽しんでないか、貴様」
「そりゃークリスマスだぜ。楽しまない方がバカだろ」
 な、とウインクしてミゲルはイザークの形の良い鼻にスポンジを当てて、その髪に隠された白い耳にゴムを引っ掛ける。
「・・・ぷっ」
 思わず噴出したミゲルにイザークの顔は真っ赤になる。
「笑うな、貴様!!」
「いや、悪りぃ。でもお前、肌が白いから赤いのすっげー目立つし・・・くくっ」
 ミゲルの言葉に他のメンバーも次々と覗き込む。
「うわぁ、イザークかわいいです」
 ニコルの言葉は丁寧だが、言ってる内容は面白くもない。
「お、やった。トナカイコンビ♪」
 ひづめの着ぐるみでイザークの肩を抱いてラスティは心底楽しそうだ。イザークを見たアスランには言葉もなく睨みつける。
「・・・いや・・・、いいんじゃないか」
 ギャラリーの反応のたびにイザークの額の皺は深くなる。
「じゃ、とっとと始めようぜ」
 これ以上引き伸ばしたらイザークが爆発しそうだ、とディアッカが促して二組に分かれて大きな袋を持ち上げる。中味は例年通り焼き立てのクッキーだ。
 コスプレした二人組みが控え室を出ようとしたときに、ミゲルが声をかけた。
「イザーク、笑えるときに笑っておけよ。そのうち笑いたくても笑えないなんて時がくるかもしれないからな」
 先輩面したその言葉にイザークはふん、と鼻先で笑った。
「そんなときが来たら、バカな先輩のことを思い出していくらでも笑ってやるさ」



「イザーク?」
 いつまでも大人しいイザークの部屋の様子にディアッカは覗き込んで声をかけた。
「どうしたの?」
 部屋の中に入りながらディアッカはイザークを伺う。その声にイザークは現実に引き戻された。
「いや・・・懐かしいものが見つかってな・・・」
 言いながらイザークは視線を掌に落とす。
 その手にあるものをみてディアッカは表情をやわらかくする。
「掃除終わったら墓参りでも行っとく?」
 クリスマスケーキでも持ってってやればラスティあたりが喜ぶんじゃない? とディアッカは小さく笑う。
「なら、ミゲルには酒だな」
 そう言ったイザークにディアッカは頷いてくしゃくしゃとその頭をなでる。
「でもその前に掃除、ちゃんと終わらせてよね」
 きちんと釘を刺されたイザークは渋々と「わかってる」と小さく答えた。そして手にしていた赤いスポンジを机の引き出しへそっとしまう。
「笑いたくても笑えないとき…か」
 もう二度とそんな思いをすることがなければいい。
 この赤い鼻の出番が二度とないように、とイザークは遠く向こうに行ってしまった金髪の先輩に思いを馳せるのだった。






END



2005/12/16

あとがき。


クリスマスのお話、のつもり。
トナカイイザークの絵を描いておいて、後付けのお話です。
思いついたその日に書いたので、あまり深くない・・・。
リハビリ、リハビリ。


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