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 ディアッカがチョイスしたドリンクを頼んでから、二人は料理を選ぶ。
 いつもは人任せなイザークが料理に興味があるらしく、メニューを覗き込んでくる。
「これ、結構うまいよ。お前って魚すきだろ?」
 FISH と書かれた中の一品をさしながらディアッカは勧める。
「そうだな、でも肉料理だってかまわないぞ、俺は」
 二人でメニューを見比べる。
 目の前のきれいな顔に見入って、ディアッカはふと自分が戦争に志願した立場の士官生であることを忘れそうになる。
 アカデミーでの生活はそれ以前に比べたら、厳しいし味気ない。でも、イザークがいるからそれでもかまわなかった。
 けれど、こうしてふと日常生活に立ち戻ってしまうと、それがどれほど魅力的であったかを思い知る気がした。
 デートをしてメニューを選ぶ。きっとプラントに生活している人の大半は今でもこういう生活を送っているのだろうという、 平凡な日常の1コマ。ただ、自分はその生活を守る側に回ってしまった。イザークが行くと言ったから。それについていきたくて。
自分が彼を守りたくて。後悔はしていない。けれど、ちょっと寂しい気もしてしまう。
「どうした?」
 数瞬、物思いにふけっていたディアッカに気がついたイザークは不思議そうな顔をした。
「え、いやべつに。じゃぁ両方頼んでシェアしようぜ」
 言うとディアッカはオーダーのために人を呼ぶ。一瞬で消えたディアッカの表情にどこか納得しない様子のイザークは、 それでも詮索することはせずに、やがて運ばれてきた食前酒を手にするとささやかに恋人と乾杯を交わした。


 いくつか運ばれてきた料理にはイザークも納得して珍しく上機嫌だった。
 いつもより速いペースでグラスが空いていく。それを切らさないようにタイミングを見計らってディアッカは注文をしていく。
 その慣れた様子はイザークにとっては当たり前だったが、世間一般からすればかなり優秀な恋人と言える出来だった。
 やがてテーブルの料理が片付いて、空いた皿が下げられた。
「まだ飲む?」
 グラスの残りが少ないことを確認したうえで、聞いてみる。
「いや、もういい」
 残りを飲み干しながらイザークは答える。
「じゃ、紅茶?」
 聞かれてイザークはふいに思った。こいつはもしかしてすごく気がつく奴なんじゃないか、と。
 周りの様子はあまりうかがい知れないが、それでもときおりなんだか迷いながら相談している声が聞こえてくる。けれど、ディアッカは こちらが求めている回答をタイミングよく提示してくるのだ。相談する必要すらなく。その心地よさに何の疑問も持たなかったのだが、 それはそうとう相手のことを理解していなければ、できることではない。そのことに気づいて、イザークは内心参った、と思った。
 いつも当たり前だから気づくことなんてなかった。アカデミーのような限られた空間では、男女を問わず自分たちのような関係は あまりいないから比較することもなく気がつかなかったけれど。こうして普通の生活に触れてみるとディアッカというやつが改めて 見えてくるように思えた。
「ディアッカ」
 ドリンクメニューを取り寄せて、自分のコーヒーの銘柄を選んでいたディアッカは名前を呼ばれて顔を上げた。
 もちろん、イザークの欲する紅茶はすでに押さえている。
「なに?」
「お前って・・・」
「ん?」
 両手を組んで肘を突く。その上にきれいな顔を乗せて、イザークはふわり、と目を閉じた。
 そして小さく笑みをたたえて満足げに蒼い瞳で見つめる。
 それにどきり、としながらディアッカは続く言葉を待ったが、それはなかった。
「いや、なんでもない」
 そういうイザークの頬はアルコールのせいか色っぽく染まっていて、見慣れているディアッカにすらとても魅力的に見えるのだった。



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