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「イザーク?」
自分と相棒の部屋へ戻ると、ディアッカは先に帰っているはずのルームメイトの名を呼んだ。
呼ばれた少年は明日の帰宅のための荷造りをしていた。
「なんだ」
その手を休めて、ディアッカを振り返る。その表情はいつ見ても変わらない、知らぬ人間が見たら、
冷たいとさえ感じるだろう整った顔に眉根を寄せているが、それは気を許しているしるしでもあった。そうでない相手には
表情さえ崩さないのだから。
「お前、ラクス・クラインの曲って好きだよな?」
「なんだ、突然。・・・たしかに彼女の音楽はよく聴いているが」
「コンサート行かないか。チケットが手に入ったんだ」
イザーク側のベッドに座りながら、ディアッカはポケットからさっき手にしたばかりのチケットを2枚取り出した。
それを眺めながら、イザークは日付に気がついた。
「明後日じゃないか、ずいぶん急だな」
その様子にまんざらでもなく興味をもったことを確信して、ディアッカはさらに続けた。
「そうなんだよ、急にいけなくなったっていうんで譲ってくれたんだけど。これでオレまで行けなかったら申し訳なくってさ。
イザーク、なんか予定ある?」
先に自分の事情を説明してから、予定を聞く。話しの流れからして、義理堅い友人はたとえ予定があっても断らないだろうことを
ある程度予想しながら。
「予定は・・・ないわけではないが・・・」
言いよどむ様子にあと一押し必要だと感じて、ディアッカはとどめの言葉を切り出す。
イザークがディアッカ以外に優先させる約束といえば、家族、母親がらみの予定だろうと予想はついたが、
そんなことは今のディアッカにはどうでもよかった。ニコルにああ言われた手前、イザークとコンサートに行くことは、
絶対に実現させる事項になっていたからだ。
「そっか。そうだよな、急だもんな。無理いって悪かった。ほかに誰か探すっきゃないよな」
言いながら、イザークの手からチケットを取り戻そうとすると、そのうちの一枚をイザークは抜き取った。
「行けないとは行ってない」
にやり、と内心の笑みをおくびにも出さず、ディアッカは意外そうな顔をしてみせた。
「え、行けるの?」
「夕方だから、大丈夫だ」
まるで自分に言い聞かせるようにイザークは言う。勝った、と見えないように小さくガッツポーズをしながらディアッカは笑った。
「じゃぁ決まりだな」
ディアッカはイザークをそっと抱き寄せると、その白い頬に軽くキスをした。
「・・・っ、調子に乗るな!」
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